前述したスポーツ報知の記事では、二所ノ関審判部長が照ノ富士の取組に対してこんなコメントを寄せていた。
「がっかりした。(横綱に)上がる人がね…。ブーイングも分かるよ。優勝したら綱取り? 内容(の問題)もあるしな」
その立場からすると、二所ノ関審判部長は「モンゴルに帰れ」といったヤジを知っていたはずだ。それで「ブーイングも分かるよ」とコメントするのは、ヘイトを黙認しているということではないか。
他のスポーツはこういったヘイトスピーチ的なヤジに対してもっと厳格な態度を示している。顕著なのがJリーグで、たとえば、14年3月、浦和レッズの開幕戦で掲げられた「JAPANESE ONLY」の横断幕は大きな問題となった。Jリーグは浦和レッズに対し、リーグ史上初の無観客試合のペナルティーという重い処分を課し、横断幕を出した当該サポーターチームも無期限の入場禁止および活動停止となっている。
また、同年9月に行われた横浜F・マリノスと川崎フロンターレの試合中、マリノスのサポーターがブラジル出身のレナト選手に対してバナナを差し出した人種差別的な挑発行為も大変な問題となった。このとき、レナト選手に対してバナナを差し出したサポーターも無期限入場禁止の処分が下されている。
Jリーグのこのような施策は、差別問題に意識的なヨーロッパのサッカーリーグから学んだものであり、大相撲とは背景となる文化事情が異なるとはいえ、外国人力士が登場して久しい現在、日本相撲協会もこのような取り組みを始めてしかるべきなのではないだろうか。
それにも関わらず、日本相撲協会の足取りは重い。引退後も角界に残り一代年寄になりたいとしている白鵬を苦しめる〈年寄名跡の襲名は、日本国籍を有する者に限ることとする〉の規約に代表されるように、日本相撲協会の排外的な傾向は強い。
そもそも、大相撲におけるヘイトヤジ問題も今回が初めてではない。昨年の3月場所、白鵬と日馬富士の一戦で白鵬が左への変化で勝利したことに対し、観客は大ブーイング。白鵬は優勝インタビュー中に涙を流しながら謝罪した。このときのヤジにも「モンゴルへ帰れ」というものがあったと報じられている(16年3月28日付日刊スポーツ)。こういった問題が続出している以上、Jリーグのように、何らかのかたちで観客に意識改革を促す施策をとることは必須だろう。
ここのところ、大相撲を取り巻く雰囲気は異様だ。長らくモンゴル人力士の活躍が続いたなか現れた稀勢の里、約20年ぶりに誕生した日本出身横綱の誕生に観客は熱狂している。
稀勢の里の活躍は喜んでいいものだとは思うが、その一方で外国出身力士を蔑むことが本当に大相撲を応援することになるのか。日本相撲協会も、観客も、もう一度考え直す必要がある。
(編集部)
最終更新:2017.11.22 01:18