女性的な外見を備えたが、先ほどから繰り返している通り、大島は女性ホルモン投与などによる副作用の男性萎縮などはない。「勃ちが良かったり、何度でも射精できたり、よく精子が飛ぶ」、健康な成人男子の男性器と女性的な顔・ボディライン。大島は漫画やアニメで憧れた「ギャップ」のある身体を手に入れたのであった。
大島は、この「ギャップ」が男の娘の魅力だと語るが、もうひとつ外せないものに「ミラーニューロン」があるという。
〈これはイタリアにあるパルマ大学のジャコーモ・リッツォラッティらの研究によって、1996年に発見されたもので、例えば、物を掴んだり、操作したりする際に活発に作用する神経細胞です。霊長類には、自分で行動していなくても、他人が何かを動かしたりしている様を見て、あたかも自分がその動作を行っているように感じる能力が備わっています。それを担うのがミラーニューロンです。
これは女装男子を見る場合に当てはまります。
画面の向こうの女装男子が、男性器をシゴくのを見て、こちらまでその感覚が伝わってくる。そんな「共感のしやすさ」のようなものが、男性が女装男子に興奮する要因の一つになっている気がするのです〉(前掲『ボクらしく。』より)
同様の指摘は、『女装美少年』なるAVシリーズを手掛けた、ふたなり系AVの第一人者でもあるAV監督・二村ヒトシからもなされている。
〈ぼくにはおまんこが味わっている快楽は味わえないが、ちんぽの快楽は熟知している。(中略)感情移入しやすい。われわれ男は、ゲイでなくても、じつはちんぽが大好きなのだ。それは“自分自身”だからだ〉(「ユリイカ」青土社/2015年9月号)
「ギャップ」と「共感」――。今年4月からは渋谷区でパートナーシップ条例が施行されるなど、多様な性のあり方が認められるようになっているいま、「男の娘AV」という世界で、大島薫は揺らぐジェンダーの新たな地平を表現しようとしている。
(田中 教)
最終更新:2017.11.12 01:54