これら3社の調査でほぼ同じ数字があらわれていることから明らかなように、法案成立から半年が経ってもなお、国民の約半数は安保法を「評価」していないのだ。
では、菅官房長官や小野寺前防衛相は、いったい何を持ってして「最近は賛否が逆転」とか「賛成が6割、反対が3割」などという“大ウソ”を言いふらしているのか。調べてみると、どうやらその根拠は、3月19、20日、産経新聞がFNNと合同で実施した全国電話世論調査にあるようだ。
そもそも、産経グループによる電話調査というだけで、安倍政権に批判的な人は回答を避け、右翼的な思想をもつ人が多く回答する、という偏りが出るが、それだけでなく、産経の設問にはあからさまなカラクリが存在していた。同調査の質問文はこうなっている。
〈今月末(2016年3月)に施行される、集団的自衛権を限定的に容認し、自衛隊の役割を拡大する安全保障関連法は、日本の安全保障にとって、必要だと思いますか、思いませんか。
必要だと思う 57.4%
必要だと思わない 35.1%
わからない・どちらともいえない 7.5%〉
設問及び回答選択肢を他社のものとよく見比べてほしい。前述の共同、毎日、読売の調査は、安保法に対して「評価する」か「評価しないか」を問うものであった。一方、産経の調査は、わざわざ“集団的自衛権の限定的な容認”や“自衛隊の役割の拡大”という風に意味を限定して、「必要だと思う」か「必要だと思わない」かを尋ねている。
これは、明らかに「賛成」の数字を増やす“詐欺的テクニック”だ。仮に同じ時期に同じ人を対象に調査したとしても、「評価する」を選ぶ人数よりも「必要だと思う」を選ぶ人数のほうが多くなるだろう。
事実、産経の前回2月20、21日調査では同種の設問は見当たらなかったが、前々回調査(1月23、24日)では、安保法の「必要」ではなく「評価」を尋ねていた。すると、これに対する回答は「評価しない」が45.9%、「評価する」が45.2%であった。僅差だが「評価しない」が上回っていたわけだ。これが3月調査で「評価する」が12ポイントも急上昇したのなら話は別だが、実際に聞いたのは「必要と思う」かどうか。同列に語ることは愚かである。
他にも、安保法案が参院で強行可決された直後の昨年9月19、20日の調査をみると、産経は〈あなたは、日本の安全と平和を維持するために、安全保障法制を整備することは、必要だと思いますか、思いませんか〉という設問を用いて、「必要」(69.4%)、「必要ではない」(24.5%)、つまり「必要」が約7割という一見信じがたい数字をはじき出していた。しかし、同日の産経調査では、〈安全保障関連法案が、与党と野党3党の賛成多数で、国会で成立しました。法案が成立したことを、あなたは評価しますか、評価しませんか〉という質問もしており、これに対しては「評価しない」(56.7%)、「評価する」(38.3%)という数字が示されていたのだ。