その知られざる内幕が、関係者への数百時間にも及ぶインタビューなどから構成されたノンフィクション小説『ツイッター創業物語 金と権力、友情、そして裏切り』(ニック・ビルトン/伏見威蕃・訳/日本経済新聞出版社)のなかで明かされている。
本書には4人の「共同創業者」が登場するが、Twitterの「創業者」としてもっとも広く知られているのは、ジョブズ2世とも称されるジャック・ドーシーだろう。ビートルズを聴き、ガンジーを語り、毎日同じ服を着る習慣を身につけたシリコンバレーの寵児(すべてジョブズの真似である)。だが28歳のころの彼は、ただの田舎出身のプログラマーだった。サンフランシスコのコーヒーショップで、ある男を偶然見かけ、履歴書を送ったところから、彼の運命は大きく変わることになる。
その男こそ、エバン・“エブ”・ウィリアムズ、ツイッターの共同創業者のひとりであり、2代目CEOだ。ブログの流行を創り出したBloggerの生みの親で、ポッドキャスト会社Odeoの設立者(事実上、この会社がTwitterの前身だ)。このとき、エブはすでにIT業界で名の売れた人物であり、投資家でもあった。
ジャックはOdeoの社員になった。エブとは被雇用者と雇用主という関係だったが、友情を交わし、ともにTwitterを立ち上げた。まもなくしてジャックが初代CEOに就任すると、最大の投資家で取締役会会長のエブとの雇用関係が逆転した。CEOジャックの働き方に、形式上は部下であるエブが不満を持つようになった。サーバ・ダウン。彼らのプロダクトはまだ産まれたてで、恐ろしい頻度で沈黙した。それは問題だった。
ジャックは(ジョブズ崇拝からも分かるように)ビビッドなカリスマリーダーを目指していた。一方、内気なエブは“成功者”や“自由人”を演じることよりも、もっと着実に、堅実な手段でプロジェクトを拡大しようとしていた。「彼は働き足りない」。エブからしてみれば、そう見えた。社内のエンジニアたちもこう言った。「ジャックはすごいやつだし、いい友だちだ。楽しいボスだ。でも自分の能力を超える仕事にはまり込んでいる」「大統領になった庭師だ」。
上層部を巻き込んだ謀略の結果、エブは2代目CEOに就任することに成功した。ジャックをCEOから引きずりおろし、“活動しない会長”という椅子に座らせたのだ。完膚なきまでに会社から締め出すことをしなかったのは「道義上の理由」からだ。だが、この判断がエブにとって命取りになる。