小林氏と八木の密な親交は、13回目の有料会見が終わった99年7月26日深夜、本庄市内の居酒屋で飲んでいた小林氏の携帯に、八木から電話が入ったことから始まった。
「小林さん、あんたとは話ができるよ。俺は会見で嘘は言ってないからね。殺ってたらこんな電話掛けられないでしょう。俺はそんなに太くないよ」
それからは、武まゆみとフィリピン人のカレン(仮名)という八木の2人の愛人を連れ立って、新宿・歌舞伎町のフィリピンパブでの“場外会見”も行った。
〈一口飲むと間髪入れずに「まあまあ」と継ぎ足す。飲ませ方のタイミングが絶妙で、(中略)亡くなった2人もこうして毎晩浴びるほど酒を飲まされていたのだろう、と実感したのだ〉
その日は数件はしごし、他の記者が知り得ないことを体感しつつ、〈「本当は殺ったんだろう」と本音を吐いてしまった〉小林氏に、八木は〈一瞬眼光鋭くなったものの「あんたにそう言われるとはな」と寂しそうに呟いた〉という。
このことにより翌日、予定していた独占取材はキャンセルに。焦る小林氏は八木が宿泊するホテルに謝りに行くも、「あんたも他のマスコミと一緒だよ」と一蹴。しかし数時間後には、「さっきは怒鳴って申し訳なかった。事件が終わっても俺と付き合ってくれよ」と自分の携帯番号を教え、翌日には疑惑の真相を話している。
「10億円の保険金をかけたC(カレンの夫)は自分でションベンも出来ないほど酒浸りになっていた。そんなヤツを見たら誰だって長くないと思うだろう。金があれば保険を掛けるさ。まゆみが入籍した男は難病に罹っていて、彼もそう長くはない。彼女は若いから何十年も遺族年金が入る。だから偽装結婚した」
一度は突き放し、しかしすぐに胸の内を明かす──その都度の本心からの言動なのか、それとも計算し尽くした駆け引きだったのか。飴と鞭を上手く使い分けているようにも見えるが、八木はその後も、小林氏に対して絶妙な人心掌握術を見せる。