菅官房長官は、7月9日の会見で、この情報について質問されると、「拘束されたとの情報には接していない」と否定。同様に、岸田文雄外相も「少なくとも現在、邦人が拘束されたとの情報は入っていません」「(安田氏がシリアに入ってることも)確認していない」と、完全にシラを切っていた。また、7月31日の会見でも、菅官房長官は「政府としては、ありとあらゆる情報網を関係方面に駆使しながら情報収集に努めている」としつつも、「拘束されたことについては、政府として確認していない」と、一貫して拘束を認めてこなかった。
一体なぜ拘束情報を隠蔽したのか。当時、その理由を官邸記者担当記者はこのように語っていた。
「もちろん安保法制の国会論議への影響を考えてのことです。今の段階で下手に情報が出れば、強行採決がふっとびかねない。だから、隠せるだけ隠そうということでしょう。今後も、政府は後藤さんのときと同じで人質交渉をする気なんてないでしょうね。そのまま放置して、もし発覚したら、逆に『だからこそ安保法制が必要だ』という論議にすりかえる構えでしょう」(官邸担当記者)
そう考えると、政府高官が、今回の「国境なき記者団」の声明を受けて、「日本政府はしっかり対応している」と微妙にコメントのニュアンスを変えているのも、うなずける。
安倍政権は、国民に情報を伝えるため、海外の危険地域で報道に携わる邦人の命よりも、自分たちの法案、政局のほうが重要なのだ。今後、安倍官邸がどのような手段で安田氏救出に動くかは依然不透明だが、少なくとも、拘束から半年が経とうとしている安田氏の状況は一刻を争う事態であることも考えられる。
拘束情報を把握しながら半年にわたって隠蔽してきた政府の対応も冷酷だが、政権幹部に否定されたことで今回海外メディアに報じられるまでまったく報じなかった新聞、テレビの姿勢もおおいに疑問だ。
(編集部)
最終更新:2015.12.24 02:19