一見してわかるように「読売と産経は賛成に関する選択肢が2つ、反対が1つと、バランス的に賛成方向が多い」。しかも、賛成と反対の“間”の選択肢のことを「中間的選択肢」と呼ぶが、NHK放送文化研究所の実験調査によれば、“普段あまり考えないようなこと”を質問された場合、人々は中間的選択肢を選ぶ傾向が強くなるという。
事実、前述した読売と産経の世論調査における「賛成」の内訳は、こうなっていた。
「全面的に使えるようにすべきだ」=7.3%(読売)、8%(産経)
「必要最小限度で使えるようにすべきだ」=64.1%(読売)、63%(産経)
ようするに、読売と産経の調査では、集団的自衛権行使を「必要最小限の範囲で」認めるという“賛成寄りの中間選択肢”を設けたことで、ここに答えを集中させたのである。改憲派で安倍政権の御用メディアであるこの2社は、意図的にこうした選択肢を用意し、あたかも「賛成」が7割超を占めたかのような見出しをつけ、一面トップで報じたわけだ。明らかな世論操作と言うべきだろう。しかも、読売と産経のペテンはこれだけではない。
本書では、上智大学新聞学科の渡辺久哲教授による、「世論調査の質問で避けたい言い回し」として、(1)「場合によっては」(2)「慎重に検討すれば」(3)「必要最小限の」(4)「〜しても仕方ない」(5)「事情があれば」の5つが紹介されているが、読売と産経は、まさにこの「必要最小限度」という曖昧な条件つきの選択肢を使っている。これは、安倍政権が説明する新3要件のひとつである「必要最小限の範囲を超えてはならない」が、実際には明確な縛りにならないことと同種の詐術だ。
さらに、質問文の説明や前提条件が長いときにも注意が必要だという。なぜならば、その説明文が回答に影響を与える可能性があるからだ。
ここで改めて、冒頭で紹介した、読売新聞6月8日の世論調査について検討してみたい。すでに勘付いた読者も多いだろうが、この安保法制法案の是非についての質問の説明文に、読売は狡猾なトリックを仕込んでいたのである。これがその質問の文言だ。
〈安全保障関連法案は、日本の平和と安全を確保し、国際社会への貢献を強化するために、自衛隊の活動を拡大するものです。こうした法律の整備に、賛成ですか、反対ですか〉