これを端的に表すのが「流行語大賞」。「草食男子」「弁当男子」「乙男(オトメン)」(2009年)、「イクメン」(2010年)、「日傘男子」(2013年)などなど。
〈戦後のマッチョなで肉食な男性像とは一線を画し、女性寄りの特性を持った男性の増加を表わした言葉です〉と著者は綴る。それらの語感には確かに「新たな市場」の気配がうかがえないだろうか。
消費以外にも、家事や料理を能動的にこなす彼らは、旧来型の男性にはない日常的な生活力が備わっている。その価値観ゆえ女性と共通の話題やコミュニケーションも豊富、このスキルはビジネスやマーケティングの分野において大きな武器になり得るらしい。
なんだかいいことづくめなんじゃないだろうか。そこで本書に登場する彼らの生態を覗いてみると……。
大阪府の私立大学に通う、一人暮らしのA君の部屋は整理整頓が行き届いている。窓にかかるベージュのドレープカーテンは、彼がミシンで縫った自作だ。
「一人暮らしに持ってこなあかんのは、家庭科の教科書。ゲームでもテレビでもない!」
と豪語する。料理の腕も友人の間では有名で、夏は冷製パスタ、冬は出汁からとった鍋がおもてなしの鉄板メニューなのだそうだ。ただ、あまりに本格的ゆえ、ホワイトデーの日、付き合っていた彼女にタルトを焼いて持って行ったところ、「なんでこんな(すごい)の作るん?私の立場どうなる!」とキレられてしまい、別れることになる。本物の女性(当たり前だが)までもが敗北感を抱く、すさまじい女子力だ。
さいたま市で一人暮らしをする国立大学生のB君が凝っているのは、弱冠20歳にして「アンチエイジング」だ。冷蔵庫には無調整の豆乳が大量に並び、一日70㎎のイソフラボン摂取を欠かさない。
「イソフラボンは、女性ホルモンに近い働きをするそうなので、若さを保つのにいいかなと思って」とことも無げに言うB君。アンチエイジングのために化粧水や乳液を使い、肌荒れを隠し、日焼けを防ぐために3,000円超のファンデーションをバッグに忍ばせている。さらにはペンシルタイプと筆タイプのアイライナーまで使っている。浴室にはシェービング剤とメーク落としが同居する。
とある会社の新入社員C君の私服はピタリとフィットするレディースのスキニーパンツだ。当初、よく行くユニクロではメンズのスキニーの取り扱いがなく、最初は躊躇しながらレディースの試着をしたのがきっかけだった。以来、太めの形が多いメンズと違って、種類やバリエーションが豊富なのに価格の安いレディースを必ずチェックするようになった。身長172センチ、体重58キロの細身の体系を維持するため、500グラムでも体重が増えると空腹をこらえて夕食を抜いて眠る。カロリー計算も習慣になり、食べ物をみれば大体のカロリーがわかるまでになった。こうくるとオジサンは「女装したいのかな」「オネエなのかな」などと思ってしまいそうになるが、彼は自分の価値観に合う服を選んでいるだけだ。