『ルポ 中年童貞』(中村淳彦/幻冬舎)
29歳男性の半分は童貞、異性に関わることを「面倒」「嫌悪」と回答した男性は30.4%――。新聞などで「日本男性の絶食化」と大々的に報じられた日本家族計画協会の調査が、間違いであったことが判明し話題になっている。性交経験率が5割を超えるのは「29歳」ではなく「20歳」の誤りだったというものだが、この調査に限らず「草食化」「絶食化」「セックス離れ」が声高に叫ばれて久しい。たとえば先の日本家族計画協会の調査も、16〜49歳の男女2676人に配布したアンケート回答(回答率42.4%)が基になっていたが、性の問題は極めて繊細な問題であるため、「セックス自体に興味がないのか」「興味はあるけれど、相手との人間関係が面倒だと思っているのか」といった細やかな部分は現実的に得られないだろう。にも関わらず、表面的な数字だけで「セックス離れ」と騒ぐのは、そもそもあまりに問題を大雑把にとらえていると言わざるを得ない。
本当に日本人男性は「セックス離れ」しているのだろうか。40歳以上の性交未経験者への丹念なインタビューを試みた『ルポ 中年童貞』(中村淳彦/幻冬舎)を見ると、事態はそう簡単なものではないことを認識させられる。
たとえば、秋葉原のシェアハウスに住んでいる、32歳の男性。高校を中退して引きこもり、一念発起して上京したものの、人付き合いが苦手で、女性との接点は「二次元だけ」。特定のアニメの主人公を好み、いわゆる「処女信仰」も持っている。とはいえ、「オタクの男が現実の女の子と付き合っているのを眺めると本当に羨ましいなって思う。僻みですね。なんであんな奴に彼女がいるの、って」と語っているところを見ると、生身の女性に興味がないわけではないのだろう。
「女の人と話すときは壁を作って、なにも話せない。挨拶ぐらいはできても、日常会話は難しい。無理です」と話す彼は、現実逃避先として二次元の世界をよりどころにしているように思える。
一方でリアルな恋愛が、「童貞」の理由になることもある。某塗料メーカーの研究室に勤務する34歳の男性は、人付き合いが苦手で、現在の職場でも「一流大学院卒の高学歴だからイジメに遭っている”と思い込んでおり、友人と呼べる人もいない。
学生時代には好きな女性に告白したが、「無理」とたった一言でふられてしまう。そしてその辛さから逃れるために、リストカットを繰り返し、彼女が別の男性と楽しそうに歩いている姿を見た時には、大学の校門で首と手首を切り、精神病院に入院。
その苦い経験があるからか、次に好きになった相手にはアプローチすることなく、ただただ日記に彼女との交際の様子をつづり、妄想を膨らますだけの日々を10年以上送っていたという。