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実はコメもひじきも危険食品だった!?放置されてきたアヤシイ安全基準値

 07年、中国産キクラゲに農薬フェンプロパトリンが0.02㎎/㎏残留していることがわかり、基準値の0.01㎎/㎏を超過したとして廃棄される事例があった。ところが、リンゴやイチゴ、ブドウなどの場合、同じ農薬の残留基準値は5㎎/㎏となっており、これはキクラゲのおよそ500倍になる。

 実はリンゴやイチゴには作物残留試験が実施されており、その結果を基に基準値が定められているのだが、キクラゲには試験が実施されておらず、一律基準値である0.01㎎/㎏という数字が適用されたため、こうした違いが生まれたのだという。もちろんどちらも健康リスクはほとんどないのだが、中国産キクラゲは、当時の中国製品に対する不信感などもあって問題視されてしまったのだ。

 こうなると、なにが安全な食品かが分からなくなってくるが、これは「環境」や「事故」に関する基準値にしても同様だという。

 そのひとつが環境に関する基準値だ。たとえば、最近話題となった大気汚染物質「PM2.5」にしても、その基準値は10年近くもかけて策定されたものだが、あまりに難解なロジックのため、その根拠を説明できるマスメディアは皆無だった。こうした事態が起きるのも、日本の大気汚染対策の基準値が約40年ほど前に定められてからほとんど変わっていないからだという。「常に適切な科学的判断が加えられ」「必要な改訂がなされ」ているとは到底いいがたい状況なのだ。中には光化学オキシダントという基準値達成率がほぼゼロの大気汚染物質すら存在しているのだから、基準の曖昧さに呆れるばかりである。

 事故に関する基準値でも目から鱗の話が盛りだくさんだ。バスや電車内でよく耳にする「優先席付近では携帯電話の電源をお切リください」のアナウンスは、携帯電話の電波がペースメーカーなどに干渉することを防ぐためのものだが、総務省から示された双方の距離の指針は「15㎝」。実はこの数値も「過度に安全側の対応」となっており、ましてや「電源を切る」対応には科学的根拠がないとの指摘もある。

 こうした事例を知れば知るほど、基準値の複雑さ、曖昧さには驚かされるが、本書の主旨は“なにが危険でなにが安全なのか”を論ずることではなさそうだ。

 「危険を煽るつもりも、過度に安全を強調するつもりもない。心がけたのは、基準値のありのままの姿をできるだけ正確に紹介することである」

 基準値とは、世界を生きていくうえで避けることができないさまざまなリスクの“およその大きさ”でしかない。その数値は科学的なデータに加え、法律や行政、過去の歴史など、さまざまな要因が加わって決められている。

 数字を見ただけで一喜一憂するのは無意味であり、本当に大切なのは、数値が決まる「からくり」を知ることで、「無用の不安や油断から解放され」、「表示を参考にしながら最終的には自分で判断する」という、当たり前の方法を実践することなのかもしれない。
(時田章弘)

最終更新:2015.01.19 05:34

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