
『「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」ベトナム帰還兵が語る「ほんとうの戦争」』(講談社)
本日、塚本晋也監督の『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』が公開になった。同作は、イタリアで開催中のヴェネツィア国際映画祭でも、是枝裕和監督の『ルックバック』とともに、金獅子賞コンペティションに選出されており、高い注目を集めている。
塚本監督は『鉄男』『野火』などで世界的な評価を受けている映画監督で、同映画祭にも何度もノミネートされているが、この新作は、現地時間4日のワールドプレミア上映後、観客から熱烈なスタンディングオベーションが起こり、約8分間拍手がなりやまなかったという。
だが、この『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』は非常に重いテーマを私たちに突きつける作品でもある。
同作品は、アフリカ系アメリカ人で、沖縄米軍基地の海兵隊からベトナム戦争の最前線に投入されたアレン・ネルソンさん(2009年没)の半生を、同タイトルの自叙伝をもとに映画化したもの。
ネルソンさんといえば、戦争から帰還後、自身の体験をもとに日本全国で1200回以上の講演を行い、同書をはじめさまざまなメディアで戦争がいかに悲惨であるかを訴え続けたことで知られている。
また、日本国憲法第9条のことを高く評価し、「いかなる核兵器よりも強力であり、いかなる国のいかなる軍隊よりも強力」と語ったこともある。
ネルソンさんが戦争反対を強く訴え、憲法9条を賞賛したのは、ただ戦争が多くの被害を生むからだけではない。自らが戦場で人を殺したという「加害」の問題に正面から向き合ってきたからだ。前述した講演や著書でも、加害者として自らが犯した戦場での行為と帰還後の葛藤について詳細に語り、だからこそ戦争に加担してはならないと訴えてきた。
そして、このネルソンさんが語ってきた「加害者の視点」こそ、いまの戦争や安全保障をめぐる議論にもっとも欠けているものなのだ。
この国では、ある時期から、過去の戦争加害、侵略行為をなかったものにしようとする歴史修正主義が広がり、「他国の侵略から国民を守るため」などという建前で、再び「戦争のできる体制」づくりが着々と進められるようになった。そして、戦争を知らない世代が大半になった国民もすっかりその空気に呑み込まれ、「自分たちの命を守るためには、改憲や防衛力増強は当然」という意見が大勢を占めるようになった。
しかし、戦争とは自分の命が危険にさらされるだけでなく、自分が他者を殺し、大勢の命を奪う行為に加担することに他ならない。
今回、塚本監督が『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』を映画化したのもまた、加害者の視点で戦争の本質を炙り出し、その視点で戦争を見ることを日本の人々に思い出してもらおうと考えたからだろう。
報道によると、塚本監督は、ワールドプレミア上映後の囲み取材で「僕は戦争を止めようというくらいの気持ちでこの映画を作っています。見た方に頭で考えるだけではなく、体で戦争の恐ろしさを感じてもらい、本能的に戦争を拒否するような体感を持ってもらいたい」とその制作意図を振り返った上、ヴェネツィア映画祭での大きな反響についてこう語っていたという。
「加害者の視点から描いた本作がどこまで受け入れてもらえるのか未知数でした。だから今日、実際に上映して、お客様に伝わったという感触を得られたので、本当に良かった」
「なるべく多くの人に見てもらうことができれば、もしかすると戦争をかなり止められるのではと、感じました」
本当にひとりでも多くの人にこの映画を見てもらいたいと思うが、『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』をめぐっては映画祭での高い評価とは裏腹に、日本国内で当初、全国28館での上映が予定されていたのに、9館へと縮小されるなど、むしろ人々がこの映画を認知する機会が奪われつつある。
本サイトは、いまから11年前の2015年7月、安倍政権が安保法制の採決を強行しようとしているタイミングで、ネルソンさんが遺した言葉を紹介する記事を配信した。
今回、あらためてその記事を再録するので、ネルソンさんが自分の加害について何を語り、戦争の本質をどうとらえようとしていたのかを知ってもらいたい。そして、ひとりでも多くの人に映画館に足を運んでもらいたい。
(編集部)


