柳澤秀夫氏「右から左に垂れ流すのがメディアの仕事ではない」
柳沢氏が寄り添うのは出身地である福島だけではない。沖縄についても繰り返し語ってきた。たとえば、同番組が沖縄の本土復帰から45年目の節目を迎えた昨年5月15日に放送した特集では、柳澤氏自ら沖縄をレポート。いつ事故を起こすかわからない米軍機が頭上を飛び交う沖縄の日常を伝え、スタジオではこう口を開いた。
「僕自身も正直、こうやって沖縄の基地のことを取り上げるときに、原稿上は『沖縄の基地問題』って書くじゃない。これにものすごく違和感を感じているんですよ、最近。『沖縄の問題』『沖縄の基地問題』、これ違うんじゃないかと。『日本の問題じゃないか』って。沖縄と本土というよりも日本全体の問題だってことを意識しないと、これは現実をきっちり捉えることできないんじゃないかって、つくづく思う」
さらに、有働・井ノ原司会の『あさイチ』終了2日前にも同番組は沖縄を特集したが、このときも柳澤氏はこのように言及した。
「沖縄に在日アメリカ軍基地施設の70%が集中しているってことで、向こうに全部押し付けちゃっているんだって。そこにどうやってイマジネーションを働かせて想像できるかっていうことだと思うんだよね」
「見ているとね。よく福島の原発事故の現実と沖縄の現実と、ぼく重なって見えることがあるんだよね。自分も問題として考えたときに自分はどういうふうにすればいいのか、何を言えばいいのかって非常に似ているような気がするんだよね。本当に東京の真ん中に基地ができるかどうかっていう話を考えてみたらどうか、原発を置いてみたらどうかっていう話と共通するような」
基地問題は日本全体の問題であると同時に、国民ひとりひとりが突きつけられている問題だ──。この在京メディアに決定的に欠けた視点を、柳澤氏は一貫して指摘し、視聴者に語りつづけたのだ。
柳澤氏のこうした姿勢は、戦争への危機感が増すなかでも貫かれた。2016年8月に、憲法9条の改正が議論にあがるなかで現代の戦争を考えよう、というテーマで特集が組まれたときには、VTR出演したミャンマー人の女性が「銃を持って戦うことだけが戦争ではない。言いたいことを言えないことも戦争」とコメント。すると、これを受けて柳澤氏は、こんな話をはじめた。
「メディアで伝える立場にあるぼくらの仕事っていうのは一体何なのかなって、やっぱり考えなきゃいけない」
「目の前にある現実が一体何なのかなって立ち止まって、そこから『本当なのかな? これひょっとしたら嘘かもしれないな』って、それをチェックしていくのがぼくらの仕事だと思うんだよね。で、右から左にきたものをそのまんま『こうですよ』って垂れ流すのは、ぼくらの仕事を果たしていないと思う」