病気の進行状況について、医者からは「何もしないで放っておけば、早くて二、三ヶ月、長くて七、八ヶ月、平均して半年で死にます」とまで言われるほど一時期はまずい状態だったのだが、本書を読んでいて印象的なのは、そんな状況になって、むしろ、より心を強くもち始める2人の姿だった。
〈来週の手術の日に、ギャラの高い仕事が入っていることを言うと、それはやったほうがいい、と。
「これからお金かかるし。いろいろすみませんね」
そう言われて、気がついた。そうだ、もう私が働くしかないのだ。さっき石田さんは、仕事が続けられるかどうか聞いていたが、抗がん剤治療をしながら仕事を続けている人もたくさんいると言っていた。しかし石田さんのいまの仕事は難しそうだ。なによりさっきの説明で、なんとなく、長くはなさそうだということがわかってしまった。それは石田さんも同じだろう。
よし、これをネタに稼ごう! 急に明るい気分になって私が言う。死ぬ前に一花咲かせよう! と笑い、石田さんもツイッターに癌告知されたと書くと言い出した。
「ツイッターに書いたらすぐに広まるから、仕事が増えるかもね」
「ベストアルバム作らないとな、あ、次来るときにこれまでのアルバム持ってきて」
(中略)
一緒に一階まで降りて、もらった説明書のコピーをとると、「持っといて」とそれを渡された。これ見て原稿を書く参考にするわ、と笑う。石田さんも今日のことをどこかで書くだろう。こういうところが、私たちは似ているのかもしれない。今日ほどたくさん話したのはどれくらいぶりだろう。なんだかおかしな連帯感が生まれている〉
もちろん、闘病の日々は苦しく、痛みや具合の悪さに苦悶するECDの姿や、子どもたちを抱えたまま夫がいなくなってしまうかもしれないことに不安を覚える彼女の姿も、本書にはおさめられている。
『家族最後の日』は、昨年10月18日までの手記をおさめて終わっているが、この後ECDは、再度手術を行い、今年2月23日、〈おかげさまで明日午前中の退院が決まりました!もう再発でもしない限り入院はありません〉とツイートし、病気が寛解した旨のメッセージを発信した。
今月1日、〈ささやかなお見舞い返し〉として、SoundCloud上にアップされた新曲「甘く危険なお見舞い返し」でECDは、山下達郎「あまく危険な香り」をサンプリングしたトラックに乗せてこんな言葉をラップしていた。
〈遠慮なんかしてたらこの世にバイバイ/しなくちゃならなくなる事態/避けなきゃならないそれだけは絶対/だからアタマは使ったぜフルに/ちょっとした判断ミスが命取り/そうやって過ごして来た半年余り/帰って来たぜここにこの通り/取り返してやるぜ その時間を/時間ってスゲーなによりも今回/学んだことさどんな苦しさも/痛さも永遠には続かない〉