新国立競技場は“世界の人々に感動を与える場”にはならない(左・首相官邸HPより/右・『渡辺恒雄の虚像と実像』宝島社)
平気で他人をだます人間を「ペテン師」と呼ぶ。ならば、それは、東京五輪誘致で世界をだました安倍晋三首相にこそふさわしい肩書きかもしれない。
安倍首相は先月17日、2020年東京オリンピック・パラリンピックのメイン会場「新国立競技場」の計画を白紙撤回すると発表した。世界的建築家、ザハ・ハディド氏のデザイン設計によって2520億円に膨れあがった建設費に国民の批判が爆発し、その勢いに気圧された首相がやむなく現行プランを引っ込めたのだ。
しかし、この白紙撤回、本来は認められるものではないという。東京五輪組織委員会会長の森喜朗元首相は、「IOCのバッハ会長からお詫びをすることはまったくないと。変更は当然あるべきだと理解を得た」と胸を張っていたが、実際はそうではないらしい。
外電によると、8月1日に開かれた国際オリンピック委員会(IOC)の総会は白紙撤回を容認したものの、東京五輪の準備状況を監督しているコーツ調整委員長は「進捗(しんちょく)状況を注視する」と言及。バッハ会長はさらに踏み込んで「質やコスト管理、時間(工期)が保証されるようIOCが関与すべきだ」と異例の発言を行い、日本側への不信感を隠さなかった。
総会に出席した森氏は一連の発言に驚いたようで、記者団に対して「日本が頼りないからではなく、時間がなく後戻りできないのでIOCは介入する、一緒にやらせてくださいという意味だと理解している」と釈明に追われ、IOCの考えを安倍首相や遠藤利明五輪相に慌てて報告したようだ。
それはそうだろう。2年前の13年9月、IOCの選考委員を前にしたプレゼンテーションで、安倍首相はこう演説していたからだ。
「他のどんな競技場とも似ていない真新しいスタジアムから、確かな財政措置に至るまで、2020年東京大会は、その確実な実行が確証されたものとなります」