これ以上、東京五輪の開催にマイナスとなるような発信は避けたい。そのためには、国民の命を危険に晒す医療崩壊の足音が聞こえていても緊急事態宣言は絶対に出さない──。ようするに、国民の命よりも東京五輪の開催を優先させようというのである。
そして、こうした国民の命よりも五輪開催をとろうとする菅首相の姿勢を如実にあらわしていたのが、「五輪に出場する日本人選手にワクチンを優先接種する」という報道だ。
報道によれば「今月12日から開始する高齢者分が終了する前に接種を開始」「6月下旬までに2回の接種を終わらせる日程を想定」だというが、これはとんでもない話だろう。高齢者の接種のあとは持病がある人への接種が予定されているが、これだと五輪出場選手は重症・死亡リスクの高い高齢者や持病のある人を差し置いてワクチン接種を受けられることになる。つまり政府は、コロナ感染が命にかかわる人たちよりも、五輪に出場する選手を守ろうというのである。
この報道が出ると、ネット上では「そんなに五輪が大事か」「正気じゃない」などと批判が殺到し、加藤勝信官房長官や丸川珠代五輪担当相は報道を否定。だが、加藤官房長官が否定したあとも時事通信は、政府関係者が「いつかはやらなければいけない問題だ」とコメントしたとし、〈政府は日本オリンピック委員会(JOC)などの議論を注視し、優先接種の要請があれば、検討に入る方針〉と伝えている(8日付)。
時事通信以外の報道関係者の間でも、先に五輪選手を優先させるという計画があったのは事実だろうという見方が一般的だ。
大きな反発を食らったことから選手へのワクチン優先接種案は立ち消えになる可能性もあるが、こうした案が出てくること、いや、世界的なパンデミックのなかで開催を強行しようということ自体が異常だ。そして、菅首相がここまで五輪開催に固執しているのは、五輪開催後のお祭りムードのまま総裁選と衆院選になだれ込みたいという私利私欲にすぎない。
そもそも、菅首相はこの第4波で何ら実効性のある対策を打ち出そうとしないのも、国民を完全に見くびっているからだ。第3波でさんざん後手後手だと批判を浴び、医療崩壊を生み出し、死亡者を出しても、ピークが過ぎたあとは支持率が回復した。そのため、第4波で再び多数の死亡者を出してもピークが過ぎれば支持率は戻り、五輪開催で急上昇するはずだと考えているのだ。
付け上がったこの総理のもとで、いま、第3波を超える惨事が起ころうとしているのである。
(編集部)
最終更新:2021.04.09 11:26