しかも、菅政権のワクチン対応の遅れはこの注射器の問題だけにかぎったものではない。菅義偉首相は総理会見で「他の先進国に比べてワクチン接種が遅れている」と指摘された際、「確保は早かった」と何の抗弁にもなっていない反論をおこなったが、この「早い確保」も意味がなかったことが判明。昨年7月にファイザー社と政府は「2021年6月末までに6000万人分(1億2000万回分)を供給」で基本合意したとしていたが、今年1月20日になって「年内に7200万人分(1億4400万回分)を供給で正式契約」と発表。「6月末」のはずが「年内」と時期が半年もずれ込んでしまったからだ。
さらに、菅首相は会見で「先日、3社から3億1400万回分の供給を受ける契約の締結に至った」「高齢者については4月から接種を進めます」と明言したが、周知のとおりEU(欧州連合)は輸出規制に動き出すなど「ワクチン囲い込み」が激化。その上、米モデルナ社と英アストラゼネカ社のワクチンにしても、3日付の時事通信記事では政府関係者が「実際に使えるのは7月以降になる」と語り、〈治験データに不備などが見つかれば、さらにずれ込む可能性も否定できない〉と伝えている。医療従事者等には約400万人分(約800万回分)、高齢者には約3600万人分(約7200万回分)のワクチンが必要だが、果たしてこれだけの数が菅首相の言う4月に確保できるのかは不透明な状況だ。
そのため、この状況に全国の知事からは不安の声が噴出。15日におこなわれた全国知事会の会合では「ワクチンの供給時期などの具体的な情報がなく、接種体制の準備に影響が出ている」と指摘がなされたが、対してワクチン担当の河野太郎大臣は「(供給時期の情報提供は)まだ厳しいのが現実」とし、いまだに見通しさえ明らかにしていない。
そして、ここにきて発覚した、確認の怠慢によってかなりのワクチンをパーにしてしまう可能性が高いというこの事態……。冒頭に記したように森喜朗氏の性差別発言問題でかき消されてしまったが、本来ならば批判が殺到して当然の大問題であり、菅政権の「国民のために働く。」というキャッチコピーが看板倒れであることを証明するものだ。
この体たらくでは、きょうからスタートする接種でもさらなる問題が起こることになるのではないだろうか。
(編集部)
最終更新:2021.02.17 11:01