言うまでもなく、日本において安価な人材として派遣労働や非正規雇用を増大させる原因をつくったのは竹中氏だ。そして、新型コロナの影響による解雇や雇い止めに遭っている人の約6割が非正規雇用者だといわれているように、そうした人たちがもっとも深刻な状況に追い込まれている。だが、「雇用の流動化」を訴える竹中氏にとっては、こうした事態に痛痒を感じることはまったくないのだろう。
いや、それどころか、この新型コロナは竹中氏にとって「ビジネスチャンス」でしかない。たとえば、新型コロナのどさくさに紛れて国会で成立した通称「スーパーシティ法案」で竹中氏は「「スーパーシティ」構想の実現に向けた有識者懇談会」の座長を務めるなど旗振り役となってきた。この「スーパーシティ法案」は市民の同意なく知らないあいだに個人情報が事業者に提供される恐れがあり野党から反対の声があがったが、この「スーパーシティ」法の成立によって有識者会議の座長である竹中氏が事業主体側となる“利益誘導”がおこなわれる可能性は十分考えられる。
実際、新型コロナ対策が盛り込まれた第二次補正予算案では、内閣官房の予算案として「スマートライフ実現のためのAIシミュレーション」に14億3800万円を計上。内閣官房は〈新型コロナウイルス感染症の拡大防止と経済活動の両立を図っていく観点から、AI等の技術を活用し様々なシミュレーション・分析を行い、新しい生活様式・スマートライフ導入を促進する〉と説明しているが、新型コロナにかこつけた国民監視のための予算に化ける危険性もある上、こうした施策がまたもパソナなどの企業に流れていっても不思議はないだろう。
この「スーパーシティ法案」について、竹中氏は5月29日にこうツイートしている。
〈今週、スーパーシティ法案が成立した。昨年1月に閣議決定されながら、国会ではなかなか議論されなかった。これがもっと早く成立していれば、今のコロナ危機への対応も違っていただろう。その点は悔やまれるが、とにかくこれを活用する、前向きな首長さんが出てくることに期待したい。〉
竹中氏は「国家戦略特区諮問会議」や「未来投資会議」の民間議員も務めているが、そこではパソナの取締役会長という肩書きは伏せられ、「東洋大学教授、慶應義塾大学名誉教授」となっている。2016年に国家戦略特区に認められた神奈川県の家事支援外国人受入事業では事業者に選ばれた企業のなかにパソナがあり、これは完全に利益相反だが、それでも安倍首相は竹中氏を指名しつづけ、あからさまな利益誘導がおこなわれているのである。
そして、新たに浮上した電通と一体化した「持続化給付金」問題──。“政府対応を批判する国民とメディアが悪い”“雇用を繋ぎ止めるな”などと暴論を振りかざすこの男の問題にも、いまこそスポットをしっかり当てるべきだろう。
(編集部)
最終更新:2020.06.12 12:19