『自然と国家と人間と』の表紙写真にも東電とコスモ石油のロゴが
地球温暖化対策を訴えている16歳の環境活動家、グレタ・トゥンベリさんを〈あれ? 電車に乗っていらっしゃるのかな? 飛行機が×という方はもちろん車も×だろうし、てっきりヨット以外は馬車でご移動されていらっしゃるのかと想像をしていましたが…〉と揶揄し、ネットで批判を浴びた登山家の野口健氏。
前編では、いま、ネットで指摘されている過去の「児童婚」と「猫殺し」を検証し、これらが自著などでも語っている事実であることを指摘した。その人権感覚や生命倫理の欠如にはあきれるほかないが、しかし、野口氏にはもうひとつ看過できないことがある。それは、まさに野口氏の環境保護問題に対するまやかしの姿勢だ。
上述のように、温室効果ガスの排出が多い飛行機の利用を避けるというグレタさんの取り組みがまるで意味がないかのように嘲笑した野口氏だが、一般には登山家というだけでなく、エベレストや富士山のゴミ拾いなど環境問題に関する活動でも知られる人物だ。
大学時代、「7大陸最高峰世界最年少登頂記録」(当時)を打ち立てた野口氏だが、メディア的に大きく注目を集めたのは、1999年、3度目の挑戦にしてエベレスト登頂に成功した際、記者会見の場で「来年から4年連続でエベレストに行く」「日本隊が残していったゴミを回収する」と発言したこと。これで、野口氏は当時、新しいブームと言われ始めた環境問題のアイコンになった。2000年には「ダババ〜」の曲で知られるネスカフェのCMに起用される。2008年には著書『富士山を汚すのは誰か 清掃登山と環境問題』(角川グループパブリッシング)を出版。その終章は「環境問題に国境なし」というもので、地球温暖化の影響で水没が懸念される島国ツバルを取り上げている。
〈温暖化の原因をつくりだしているのは人間だ。便利さ・快適さを求めるがゆえに二酸化炭素を大量に排出しているのは、とくに我々先進国の人間である。その責任は重い。
ここ数年、環境問題への意識は確実に高まっている。だが、都市生活者の私たちは、日常生活の中で逼迫感を感じるまでにはいたっていない。けれども、この素朴で美しい島の現状に接すると、私たちのやっていることが実際にここで暮らす人々を苦しめることにつながっているという事実を痛感する。〉
では、地球温暖化の問題を「痛感」しているはずの人間が、16歳の環境活動家を〈てっきりヨット以外は馬車でご移動されていらっしゃるのかと想像をしていましたが…〉と揶揄するのはなぜか。
いまさら説明するのもばかばかしいが、グレタさんだって、自分たちが飛行機に乗るのをやめれば、すぐにCO2排出が削減されるなんて考えてはない。自分が行動を起こすことで、世界の人たちがCO2排出問題を考えるきっかけにしようとしているのだ。
実際、水俣病やイタイイタイ病などの公害問題、大気汚染問題などでも、こうした環境保護運動とアピールが世の中や企業を動かし、結果的に状況を少しずつではあるが改善させてきた。それを〈馬車でご移動か〉などと上から目線で馬鹿にする。この大人気ないヒステリックな反応はどこからきているのか。
ひとつあげられるのは、野口健氏には「環境問題に取り組むアルピニスト」とは別の顔があることだ。それは強権的な政治や暴力的な支配関係を支持し、 “リベラル派”や“自民党批判”を叩く「保守系文化人」としての顔だ。2004年以降、「正論」(産経新聞社)や「WiLL」(ワック)などの極右雑誌に頻繁に登場するようになり、保守的な発言を繰り返してきた。