だが、この“トウモロコシ爆買い”を正当化するため、安倍政権はさらに嘘までついた。菅義偉官房長官は「害虫被害でトウモロコシの供給が不足する可能性がある」などともっともらしく説明したが、これはデタラメだった。実際、農水省は「現時点では通常の営農活動に支障はない」(植物防疫課)と回答(東京新聞8月27日付)。同社の9月23日付記事でも、全国農業協同組合連合会(JA全農)の担当者は「降って湧いた話に驚いている」「米国産トウモロコシは食害に遭う国内産と用途が異なり、直接代替できない」と語っており、24日放送の『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日)でも「それほど被害は出ていない」「影響はあまりない」という複数の農家のコメントを紹介していた。
言われるがままに約7800億円もの農産物市場をアメリカに渡し、自動車分野の関税撤廃の約束が現状維持となり、その上、国民に嘘をついてまで余った大量のトウモロコシを爆買い。……どう考えても、今回の合意は「両国にとってウィンウィン」などと言える内容ではなく、アメリカに屈服した「不平等協定」と呼ぶべきものなのだ。
このように、国益をアメリカに差し出す結果になったのは、トランプ大統領の恫喝にただただ怯えるだけで譲歩することしかできなかった“無能交渉”が原因だが、さらにもうひとつ、指摘しなければならないのは、参院選後まで貿易交渉の妥結を引き延ばしてもらったという問題だ。
本サイトでは繰り返し伝えてきたように、今年4月におこなわれた首脳会談では、トランプ大統領は記者団がいる前で貿易交渉の合意時期について「かなり早く進められると思う。たぶん(5月末に)訪日するまでか、訪日の際に日本でサインするかもしれない」と答えたが、記者団が退室すると、安倍首相は 「7月の参院選があるから、それまでは無理だ。2020年秋の大統領選のことはきちんと考えている」と説明(読売新聞4月28日付)。そして5月末の来日時、トランプ大統領は安倍首相とのゴルフ後に〈日本の7月の選挙が終われば大きな数字が出てくる〉とTwitterに投稿、さらに首脳会談後にも「8月に良い発表ができると思う」と語った。
つまり、参院選前に貿易交渉を妥結すれば日本国内の農業関係者から猛反発を受け、安倍自民党が地方票を大幅に失いかねないために、安倍首相は選挙が終わった「7月以降」に応じると約束したのである。これは選挙のために国益を差し出し、国民を欺くという信じがたい行為だ。
だが、問題はメディアの報道だ。あからさまな“ケツ舐め外交”と選挙のために取引した結果、農家に大打撃を与えて莫大な国益を差し出したことを、どこまでしっかりと報じるのか。ここまで露骨な外交交渉の失敗が問題にならないようであれば、この国の報道は死んだも同然だろう。
(編集部)
最終更新:2019.09.26 10:04