たしかに、今回の弾道ミサイルの落下地点は日本の排他的経済水域(EEZ)外とみられており、「我が国の安全保障に影響を与える事態ではない」という安倍首相の言葉は正しい。だが、問題なのは、同じような事態が起こったとき、安倍首相はまるで違う態度をとっていたことだ。
たとえば、2017年4月5日早朝6時42分ごろに北朝鮮が弾道ミサイルを発射したときは、今回と同様にEEZ外に落下したが、発射から4分後には「不測の事態に備え、万全の態勢をとること」などといった総理指示を出し、政府は関係省庁局長級会議や国家安全保障会議(NSC)を開催して対応を協議。安倍首相は記者団に「安全保障上の重大な挑発行為で断じて容認できない」と強い口調で述べ、「今後、さらなる挑発行為も十分考えられる」「国民の生命と財産を守るため万全な対策をとる」と宣言している。
また、同年5月21日にも午後4時59分ごろに弾道ミサイル1発が発射され、EEZ外の日本海に落下したが、このときも約1時間半後にはNSCが開催され、夜には安倍首相が「国際社会の平和的解決に向けた努力を踏みにじるもので、世界に対する挑戦だ」と強く非難した。
少し前までは声高に北朝鮮の脅威を煽りに煽って「国民の生命と財産を守るため万全な対策をとる」などと勇ましく述べていたのに、同じようなことが起こっても、総理指示も出さず、NSCも開催せず、ゴルフのプレーの途中に「安全保障に影響を与える事態ではない」と話して終わりって……。国民をバカにするにも程があるだろう。
そもそも、安倍首相が北朝鮮の脅威を煽りに煽っていた当時は、森友・加計学園問題に対して国民から大きな反発が起きていた。ミサイルが発射されるとこれ幸いと言わんばかりに安倍首相は北朝鮮危機を必要以上に煽っていたが、それも結局は支持率回復のための“北朝鮮の政治利用”でしかなかった。
そして、関係国が北朝鮮との対話路線に舵を切って安倍首相だけが“蚊帳の外”に置かれると、その方針をあっさり転換。実際、トランプ大統領が北朝鮮・金正恩委員長との首脳会談を実現させると、政府は弾道ミサイルに対応するための住民避難訓練の当面の中止を発表している。
内閣支持率のために国民の不安や恐怖心を弄ぶ──。ミサイルへの対応をあらためて振り返ると、安倍首相の非道さが浮き彫りになるが、しかし、こうした安倍首相のやり口はいまもかたちを変えてつづいている。そう、“仮想敵国”を北朝鮮から韓国に、さらに今度は国民の不満や怒りを煽ることで参院選に利用し、引きつづき内閣支持率につなげようと必死だからだ。
安倍首相によってつくられたパニックほど馬鹿馬鹿しい茶番はない。しかし恐ろしいのは、こうした茶番の積み重ねによって先の戦争はもたらされたという事実だろう。安倍首相の煽動に乗らない冷静さが、いまこそ必要だ。
(編集部)
最終更新:2019.07.30 10:29