だが、安倍首相の暴走は年金問題だけではない。外交問題については、現実に起きていることを無視した“パラレルワールド”的主張を繰り広げた。
何しろ、誰が見ても行き詰まっている北方領土問題について、安倍首相は「前進する可能性はある」とアピールしたのである。しかも、その根拠として述べたのは「2年前の長門合意において、プーチン大統領と平和条約を私たちの手で締結をするという真摯な決意を共有することができた」というもの。
ところが、この安倍発言から数時間後、プーチン大統領がロシア国営放送に出演し、北方領土の日本への引き渡しについて「そんな計画はない」とはっきりと明言したことが報じられてしまったのだ。「決意を共有した」と思い出に浸っているのは安倍首相だけで、プーチン大統領は安倍首相と過ごした温泉旅館でのことなどすっかり忘れてしまっていたのである。
これでは安倍首相に良いところなしでマズいと思ったのか、辛坊は北朝鮮問題に話題を振り、安倍首相が「前提条件なし」と方針転換したことについて「北朝鮮のトップは他の国とは何回も交渉を重ねてるのに日本だけは交渉ができていないことに焦りを総理は覚えたのではという報道がありますが、私はねえ、総理の性格からして多分それはないだろうと」とフォロー。「これ、無条件に会うと言いながら、常識的には、どこかで拉致が動くんじゃないかという感触を持ったからではないかと想像するんですが」と質問した。
すると、安倍首相は、なんと、「それはもちろんそうですね」と返答したのだ。
え、拉致問題が動く感触を政府は持てているのか──。そう驚いたのもつかの間。安倍首相はこう続けたのだった。
「私だけが会ってないから会おうと努力するって、そんな軽薄な考え方は持ってませんが、極めて、その見方はですね、薄いというか、一面でしか見てない見方なんだろうと思いますが」
拉致問題が動く感触を持っているかどうかを訊かれているのに、「自分だけが会えていないから焦っているというのは間違いだ!」という主張を繰り出す……。これには辛坊も安倍首相の話に割って入るように「総理、どうでしょう。水面下で何か交渉が進んでいるということは?」と再度、尋ね返したのだが、その答えは、「私自身が向き合わなければならない」。それってほとんど「気合ダー」って言ってるのと同じでは……。
もはやコントを見ているようだが、外交で成果をあげるどころか失敗ばかり重ねているのだから、こんな展開になるのは当然の話だ。むしろ、誇れるような成果も身のある反論もできないのに、よくもまあヌケヌケとテレビになど出演できたものだと、違う意味で感心するほどだった。