まず、考えられるのは、官邸が公安警察を動かして資料提供をさせた可能性だ。内閣官房副長官の杉田和博氏は警察庁警備局長を務めた元エリート警察官僚で、警備・公安警察を自由に動かせるチャンネルをもっている。たとえば、2015年11月に辺野古警備に東京・警視庁の機動隊約150名を投入して基地に反対する市民を強制排除した際も、沖縄問題を担当する菅義偉官房長官が杉田氏を動かし、杉田氏が子飼いの高橋清孝警視総監(当時)に機動隊投入を直接依頼したと言われていた。今回のリスト問題も、菅官房長官─杉田内閣官房副長官ラインの関与が十分考えられるのである。
さらに、問題のライジングサン社にも、直接、公安警察との強力なパイプがあった。
もともと警備会社は警察OBの天下り先として有名だが、じつはライジングサン社も2015年11月、ある大物警察官僚を顧問として迎え入れている。それは、第88代警視総監を務めた池田克彦氏だ。
しかも、池田氏は警察庁警備局公安第二課長や警察庁警備局長を歴任するなど“公安畑”を歩んできた警察官僚。幹部にのぼりつめてからも“治安維持”を名目にして、市民運動の集会やデモなどを監視することに血道を上げてきた。
たとえば、警視総監を務めていた2010年10月には、警視庁公安部外事3課など警察が作成した国際テロ関係の内部資料がネット上に流出する事件があったが、その資料には捜査協力者や日本に住むイスラム教徒の個人情報が含まれており、公安警察がイスラム教徒だというだけでテロリスト扱いしていた事実が露呈した。
池田氏がそうした“一般市民の監視”を担ってきたことを象徴する出来事も起こっている。池田氏は警視総監退任後の2012年9月に原子力規制庁の初代長官に就任しているのだが、それ以前から経産省の意見聴取会などで原子力安全・保安院が傍聴を希望する市民のリストを警察に提供した疑いが浮上するなど、市民の監視が問題になっていた。池田氏を原子力規制庁の長官に抜擢したのも、こうした市民の監視を強める目的だったのはあきらかで、現に、池田氏が就任して1カ月も経たないうちに、原子力規制委員会による定例会の傍聴席に規制庁が私服警察官を入れていたことが発覚している。