だが、結果的にこの日本と交渉は決裂した。日本側が「制裁対象国の国営企業株を取得するのはまずい」と断ったわけではない。ロイターは決裂の経緯をこう報じている。
〈裁判で再生されたセチンの会話記録によると、日本が第二次世界大戦末期から続くロシアとの領土問題の進展とリンクさせようと要求したことで、交渉は暗礁に乗り上げてしまった。〉
ようするに、日本政府は安倍首相がぶちあげた北方領土の返還交渉を進展させるため、間接的にでも経済制裁に反する可能性のある企業の株を政府系機関に購入させようとしていたのだ。
しかも、信じられないのが、その取得先の政府系機関としてGPIFの名前が真っ先に上がっていたことだ。ロイターの記事にもあるように、GPIFというのは、年金積立金管理運用独立行政法人のこと。国民が積み立てた年金を資産運用しているのだが、その金額は130〜160兆円にものぼり、「世界最大の機関投資家」ともいわれる。
GPIFは以前は、国民の年金を減らしてしまう危険性を考えて、株式などリスクのある投資をほとんどしていなかったが、第二次安倍政権になって株式への投資を全体の半分にまで増やした。この背景には、世界最大の機関投資家であるGPIFに大量に株を買わせれば、株価が上がり、景気が回復したという印象を与えることができるという安倍政権の計算があったと言われる。
ようするに、国民の大事な年金を世論操作と政権維持に利用してきたというわけだが、今回も全く同じ構図のようだ。安倍政権は「北方領土問題進展」で自分たちの得点を稼ぐために、年金の金を使おうとしたのである。
「もともとは経産省が言い出しっぺのようですが、それに官邸が積極的に乗っかったと聞いています。国民の年金を使ってプーチン側に貢ぎ物をして、その見返りに北方領土問題でなんらかの答えを引き出そうとしたんでしょう。しかし、ロスネフチは原油の暴落で経営がガタガタ。しかも交渉から1年足らずの2017年夏には経済制裁の対象になっている。年金の金を使ってそんな株を買ったら、大損失という事態も十分ありえた。まあ、安倍首相は自分の手柄で北方領土の交渉が進んだとアピールするだけで、年金の金をつぎ込んだ結果であることは一切隠していたと思いますが」(経産省担当記者)
幸いにして、この交渉は潰れたが、このところの安倍政権の対ロ交渉への熱心さを考えると、裏で同様の“プーチンへの貢ぎ物”をもくろんでいる可能性もある。“どうせプーチンに相手にされない”などとたかをくくることなく、今後の日ロ交渉の動きに注意を払う必要があるだろう。
(編集部)
最終更新:2018.11.12 10:21