RT内容が名誉毀損に当たるかは司法の判断に委ねられるにせよ、岩上氏が言うことはもっともだろう。だいたい、すぐに削除したという岩上氏のRT内容を橋下氏が問題視したというのなら、1カ月以上も抗議ひとつしないのは明らかにおかしい。それでいて、いきなり訴訟を起こすのはどう考えても名誉回復が目的とは思えない。
そもそも一般論として、RTは他者の発言を紹介はしても、必ずしもそれに同意を示していることにはならないというのが常識的理解だろう。そのうえで言うが、もしも単にRTという行為に対してただちに名誉毀損が成立するならば、同じRTをした複数のアカウントのなかから恣意的に選び、気に食わない人物だけを狙って訴えるということが可能になってしまう。
第一、橋下氏は「政界引退」を表明した後も、日本維新の会の法律政策顧問として居座り、現在は地域政党・大阪維新の会の法律顧問である。また維新議員を始めとする政治家たちについてSNSなどでもたびたび言及し、プレッシャーを与えたり謝罪等をさせるなど、未だに政界でイニシアチブを握っている。さらに、毎年末には安倍首相と会談を行っていて、昨年12月28日にも松井一郎代表を引き連れて安倍首相、菅義偉官房長官と会食。憲法改正の方針等に関して話し合ったとみられている。その政治的影響力の強大さは誰の目にも明らかだろう。
そして岩上氏といえば、橋下氏や維新に対して批判的なスタンスで追及してきたジャーナリストだ。今回の訴訟も、批判的言論を威嚇・恫喝するためではないかと勘ぐらざるを得ない。
実際、橋下氏は以前から、自身に対する批判的な言論を訴訟によっておさえこもうとしてきた。たとえば大阪府知事時代には、月刊誌「新潮45」(新潮社)2011年11月号に掲載された精神科医でノンフィクション作家の野田正彰氏が執筆した「大阪府知事は『病気』である」という記事に対して、名誉毀損だとして新潮社と野田氏を提訴している(昨年2月に最高裁が上告を棄却し、橋下氏の敗訴が確定)。
こうした橋下氏の政治的・社会的影響力の強さ、以前から行ってきた訴訟による圧力、そしてその人自身の発言やツイートではなくRTした行為に対して訴えたことを合わせて考えると、やはり、岩上氏をある種の“見せしめ”にすることで、批判的言論の萎縮を狙ったとしか思えないのだ。少なくとも今回のケースで、単にRTしただけで名誉毀損が認められてしまったら、とりわけ政治家などの社会的強者に対する批判はかなりの抑圧を被るのは必至。こんなことが許されていいはずがない。