実際、いったい文春が何を根拠のその「ネット情報」を報じているのかというと、前の引用部に続けて〈月刊誌「WiLL」一七年十月号は、「『慰安婦像』のモデルは米軍犠牲者の少女だった」と題して、被害者の一人、沈美善(シム・ミソン)さんと慰安婦像の写真を並べて掲載した〉と、もっともらしく記されている。そのうえで、記者が「WiLL」(ワック)の記事を片手にミソンさんの父親を直撃し、「本当に美善が少女像のモデルなら不愉快です」なるコメントを掲載しているのである。
やっていることがアホすぎる。だいたい、文春が挙げている「WiLL」のソレは、「新しい歴史教科書をつくる会」元会長の田中英道氏が寄稿したものだが、じゃあ田中氏が何を根拠にしているのかというと……。
〈では、一体どのようにして、この像ができたのであろう。インターネットでみると、これについて、多くの人たちが疑問を抱いていることがわかる。そして驚くべき由来が書かれていた。〉(前掲・田中英道氏の記事)
そう、完全に「ネットde真実」(笑)ってやつなのだ。なお、このあと田中氏は、ネットに書かれている「由来」を丸呑みして、少女像はもともと米軍装甲車に轢き殺された少女の像としてつくられ、それがのちに慰安婦問題を象徴する像として転用されたと断言。被害者のミソンさんの遺影と少女像の写真を見比べて、〈その死んだ少女の顔とこの慰安婦像と呼ばれる少女像とは、ほぼ同じ顔ではないか〉と驚いてみせ、〈何と杜撰な置き換え〉〈これほどあきらかな典拠をもった像を、別の目的の像に転用するのは、明らかに盗作、偽作の類である〉と猛批判してから、こんな持論で結んでいる。
〈イコノロジー(図像)を間違えた像は、意味がない像となる。つまり韓国の慰安婦像は、実質的に意味がない像なのである。
私たちが、これを米軍による犠牲者像とはっきり言うことによって、少女像を無意味化することが必要だ。少なくともこれは慰安婦像ではない、と否定することによって、韓国の反日政治運動のシンボルの虚偽性を明確にし、彼らの運動のレベルの低さを笑うべきだ。そんな像をいくら作っても、意味はない、というべきなのである。〉
“少女像のモデルは無関係の人物→慰安婦問題の運動は虚偽”という凄まじい論理展開に閉口してしまうが、しかし実際には、嘲笑すべき低レベルをさらけ出しているのは田中氏と、そのトンデモ記事を根拠みたいに挙げている文春、そして文春のネタ元の「官邸関係者」のほうである。
もう一度言うが、その「少女像は米軍装甲車事故被害者像の転用」説なるものは、ネトウヨ界隈で流通しているまったくのデタラメに他ならないからだ。