では、新潮が指摘する“スクープの捏造”とはどういったものか。まずは文春の山口記事をおさらいしておこう。
「歴史的スクープ 韓国軍にベトナム人慰安婦がいた! 米機密公文書が暴く朴槿恵の“急所”」
そう題された記事のあらすじはこうだ。山口氏はまず、〈きっかけは、アメリカに赴任する直前の二〇一三年初夏、ある外交関係者から聞いた言葉だった〉と記す。記事によれば、「慰安婦問題が朴大統領の反日姿勢を証明するツールとなった以上、彼女から自分がこの問題を解決するという選択肢はなくなった」と語りかけるこの「外交関係者」なる人物は、さらに山口氏へこう示唆したのだという。
「実は、ベトナム戦争当時、韓国軍が南ベトナム各地で慰安所を経営していたという未確認の情報がある。これをアメリカ政府の資料等によって裏付ける事ができれば、慰安婦問題において韓国に『加害者』の側面が加わる事になる」
山口氏は、〈この人物に背中を押され、ワシントン赴任早々の一三年九月から、私の全米各地に眠る公文書を探す取材が始まった〉と記す。そして、2014年7月、〈誰もいない支局の小部屋で、いつものように犯罪記録の公文書を一枚一枚剥ぐように読み込んでいると、一通の書簡に行き当たった〉という。
まるで「世紀のスクープは地道な資料調査から始まる」と言わんばかりの筆致だが、これこそが山口記事の根幹をなす米公文書だった。この公文書はサイゴンにあるアメリカ軍司令部から韓国軍司令部に送られた書簡で、宛先は「ベトナム駐留韓国軍最高司令官」だったという。書簡には日付がないが、山口氏は1969年1月から4月に書かれたものと推定したうえで、そこにあった「トルコ風呂」に関する記述に着目し、こう述べた。
〈この「トルコ風呂」について書簡は、「売春行為が行われていて、ベトナム人女性が働かされている」と説明している。
そして、主題である通貨不正事件の捜査のために、米軍とベトナム通関当局が共同で家宅捜索を行なって、その結果を、次のように記していた。
「この施設は、韓国軍による、韓国兵専用の慰安所(Welfare Center)である」(The Turkish Bath was a Republic of Korea Army Welfare Center for the sole benefit of Korean Troops.)
驚いてなんども読み返したが、米軍司令部がこの施設を「韓国軍の韓国兵のための慰安所」であると捜査に基づいて断定している。〉
山口氏は裏付け取材に走り、退役軍人や研究者にインタビューをするなどしたうえで、このように論じた。
〈「軍の規律維持」と「性病防止」のために、韓国政府と韓国軍が組織的に慰安所を設置、運営したのであれば、そこには明白な国家の意思が存在することになる。そしてその構図は、韓国政府が繰り返し厳しく批判する日本軍の慰安所と全く同じだ。〉
〈朝鮮戦争休戦後、わずか十余年でベトナム戦争に参戦した韓国軍が、ベトナムでも慰安所を運営するのはごく自然な成り行きだっただろう。〉
〈ベトナムに韓国軍の慰安所が存在したことがアメリカの公文書によって明らかになった今、朴槿恵大統領は自ら発した言葉に応える義務を負った。〉(山口記事より)
ようするに、慰安婦問題で日本を非難する韓国もまた、ベトナムで慰安所をつくり、女性を蹂躙していた。これで「慰安婦問題において韓国に『加害者』の側面が加わる事になる」──。それが記事の主張するところだった。