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山口敬之事件だけじゃない、裁判所ではレイプを“被害者の落ち度”とする判決が横行! 背景にある司法界の女性蔑視

 この裁判における判決文で裁判官が繰り返し使用しているのは、「貞操観念」という言葉だ。合意もなく暴力に出た被告人の「貞操」は問わず、被害者にだけそれを強要する。男女によって非対称的な性道徳を押し付けることは性差別以外の何物でもないが、裁判官はそれを当然のこととして判決に反映させているのである。

 しかも、〈その種の判決は、残念ながらいまでも出されています〉と著者はいう。

 同書はおもに2011年に出されたある性犯罪の判決を疑問視し、問題提起した内容なのだが、それは当時18歳の女性が「ついてこないと殺すぞ」と男に脅迫され、ビルの踊り場で強姦されたという事件だった。

 この裁判では、まず地裁が女性の供述の信用性を認めて被告人に懲役4年の有罪、高裁も一審判決を支持して控訴を棄却したのだが、最高裁は自判し、“女性が助けを求めていないのが不自然”“「無理やり犯された」のに膣などに傷もついていない”“女性は供述を変化させている”などとし、一審判決を「経験則に照らして不合理であり、是認することができない」としたうえで逆転無罪が言い渡されたのだという。

 この判決からわかるのは、現在の裁判では驚くべきことに〈女性は強かんされそうになったら、暴行または脅迫に対して反抗するものだし反抗できる、という前提が、法のうちに確固として置かれている〉という事実だ。ここでは被害者が恐怖で声をあげることさえできなくなる追い込まれた心理状態がまったく無視され、痴漢被害に遭って大声で叫んでも周囲の誰も助けてもらえなかったという事例も見落とされている。その上、膣に傷がないことが理由のひとつにあげられてしまう点は、脅され、さらなる暴力や死の恐怖を感じた被害者が加害者の言いなりにならざるを得ないという事実も無視しており、供述の変化にしても、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などがまったく考慮されていないのだ。

 いかに最高裁の裁判官が性暴力に対する知識をもちあわせていないか、よくわかるというものだが、このようななかで最高裁は被害者の訴えを「経験則に照らして不合理」と断じたのである。

 しかし、裁判官の言う「経験則」とは一体何なのか。この11年判決が考え方の論拠とした09年判決(痴漢事件に関する最高裁判決)の補足意見では、那須弘平裁判官がこのように記しているという。

〈我々が社会生活の中で体得する広い意味での経験則ないし一般的なものの見方〉

 これはどう考えても「我々」という言葉の主体は、裁判官自身がそうであるように「男性」であり、「経験則」とはつまり男性中心の社会でつくりあげられた“男女差”に依拠した、非科学的かつ主観的なものであるということだ。

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