まず、素朴気になるのが、なぜ、産経には他の全国紙・ブロック紙ではほとんど見られない“ユニークすぎる極右記事”が並ぶのかということ。さぞかし、社内はネトウヨだらけなのかと思いきや、本気の右翼思想をもっている人はあまりいないらしい。
まず、松沢氏が「『産経』の社員が、みんな右翼かというと、そんな人はほとんどいません」と切り出すと、OBのA氏も幹部批判をしながら、こう語った。
「取締役会に出たことのある人の話なんですけど、「『産経』の取締役は本当にひどい。どうしようもない奴らばかりだ。こんな無能な連中が取締役でいて、いい会社になるわけがない」とこぼしていました。幹部は思想的にも普通の人だったと思うんですけど、メディアにおける『産経』の位置づけからして、「商売右翼」でしか生きられないんですよね。幹部も社員も右翼的な思想とは全く無縁といって差し支えないと思います。
『産経』で経営者になったり、局長になる人は、そういう風に自らをしつけるというか、振る舞うほかないのかもしれません。左翼はあんまりいないでしょうけど、ホンモノの右翼もほとんどいません」
他紙に比べてシェアが低い産経が生き残りのために、右派読者にターゲットを絞ってどんどん極端になっているという話はよく聞くが、このOBによると、幹部もただの「商売右翼」らしいのだ。
一方、産経新聞に入ってくる新入社員たちの実態、メンタリティを明かすのは、同じくグループOBのB氏だ。
「そもそもどういう人が入ってくるかというと、「朝・毎・読」(『朝日新聞』『毎日新聞』『読売新聞』の略)とNHKの試験を落ちた人が『産経』を受けて、それぞれおさまっていきます。
そういう意味では、東京本社の記者はかなりコンプレックスが強いです。学歴的にも華々しい人はあまりいませんし。学校の成績も入社試験の成績もイマイチだった人が入ってきます。そして、東京本社の記者は自分の紙面を恥じている人が多い。本当は『朝日』に行って、カッコ良く社会批判の記事でも書きたかったんだけど、そうは問屋が卸さなかった。仕方なく『産経』に入り、「ジャーナリストになりたいという夢」は一応、表面的に満たしてくれるので、そこで言われたことをやるという人がほとんどでした。
世間の評価は特に『産経』東京本社は低いですし、「自分は、こういう記事を書きたいんだ」という志のある人はあまりいませんでした。入社のときにジャーナリストとしての志が、挫けてしまった感じです」
ようするに、右派イデオロギーと政権擁護を前面に出した、ああいう紙面を本気で書きたいと思って入ってくる記者はほとんどおらず、他紙を落ちて仕方なく入ってきた者もけっこういるらしいのだ。しかも、驚いたのが、産経の記者たちが自分たちの紙面を恥じているという証言だ。
まあ、普通の知性があれば、あの紙面を恥ずかしいと思うのが当然だが、産経の社員にまだそういう良心が残っていたとは……。しかし、だとしたら、産経の記者としてあんな記事を書き続けるのは相当な苦行だろう。そこで、記者たちが考えるのは「他紙への転職」らしい。
「入社した頃、みんなで「とりあえず『産経』で仕事を覚えて、他に行ってしまおうね」という話はしょっちゅうしてました」(B氏)
実際、産経新聞では、記者の離職率がかなり高く、入社から数年で他紙や週刊誌に移るケースが頻発していると言われている。もちろん、読売や朝日と比べて給料が圧倒的に安いという事情もあるだろうが、記者たちのこうしたメンタリティも影響しているのではないか。