“安倍さまのNHK”のこうした変化の背景にあるのは、今年1月にNHK新会長に就任した上田良一氏が理事会で発した発言だったという。
「上田会長は、就任してしばらくたった後、公共放送であるNHKの権力を追随する姿勢に対して海外メディアから予想以上に厳しい批判や疑問の声があがっていることを知って、理事会で“ジャーナリズムの使命を果たす必要がある”“調査報道にも力を入れていかなければならない”といった趣旨の発言をしたようなんです」(NHK関係者)
上田会長は、経営委員のひとりとして登壇した昨年5月の「視聴者のみなさまと語る会in函館」でも、「放送、ジャーナリズムが国家権力に追随するような形というのは、必ずしも望ましい形ではありません」と発言。この発言は受信料についての話題であったとはいえ、「籾井前会長よりは公共放送局としての意識をもっている」という声も局内に広がっていた。そこに、この発言があり、籾井時代から、現場の報道に圧力をかけまくっていた小池報道局長ら忖度官僚の圧力が弱まったということらしい。
「この発言は我々現場にも伝わっていて、籾井時代に牙を抜かれ、ガタガタにされていた社会部が息を吹き返した。少しでも、調査報道をやろう、権力チェックをやろうという空気が出てきた」(社会部記者)
だが、上述したように、これはあくまで籾井時代と比べた場合であって、けっして自由に報道できるようになったわけではない。社会部はたしかに頑張っているが、安倍首相の代理人、岩田明子記者が牛耳る政治部は相変わらず安倍政権の広報機関という姿勢を崩さず、相変わらず社会部の報道に圧力をかけて、政権批判潰しを続けている。
たとえば、NHKの社会部は5月、朝日新聞がスクープした最初の文科省内部文書についてもその存在と告発の動きをいち早くキャッチ、朝日より前に報道する準備を進めていた。ところが、これも政治部と小池報道局長の圧力によって、『文科省の審議会が加計学園の獣医学部設置に課題があると報告をまとめた』というニュースのなかで少し触れるという扱いにされ、肝心の『官邸の最高レベル』などの文言は黒塗りにされてしまったのだ。
また、社会部は文科省前事務次官の前川喜平氏が記者会見する前に独占インタビューを収録済みだったが、これも同様にお蔵入りをしている。