あらためて秀直氏の女性スキャンダルを振り返ってみよう。きっかけは、当時20代の愛人を妊娠中絶させていたという報道。2000年、いくつかの週刊誌と月刊誌がこの秀直氏の愛人疑惑を報じ、元愛人による手記などを掲載。そのなかで、新潮社の写真週刊誌「フォーカス」が愛人を自宅の寝室に招いたときの写真や、秀直氏がサインしたとする人工中絶の同意書を公開し、一気に追い詰めていく。
ちなみに、秀直氏はこの中絶同意書のサインに「中川一郎」(故人で自民党タカ派の元重鎮)との偽名まで使ったと週刊誌で報じられたが、今回、息子の俊直議員も元愛人との“結婚証明書”に「Nakagawa Shunchoku」と偽名(音読みの愛称)を用いていたというから、これもある意味“父親譲り”ということなのだろう。
だが、秀直氏のスキャンダルは愛人問題だけではなかった。この元愛人には覚せい剤の使用疑惑があり、すでに捜査当局も動いていたのだが、そこで秀直氏が官房長官という地位を利用し、元愛人に電話で内偵情報を漏洩していたことを「フォーカス」がすっぱ抜いたのだ。しかも「フォーカス」は入手したその電話の録音テープをテレビ局にも提供。地上波で音声が放送されたことが決め手となり、ついに秀直氏は官房長官辞任に追い込まれたのである。
愛人疑惑だけではなく捜査情報まで漏洩──。これだけでも公的な立場を利用した前代未聞のスキャンダルだが、このあと、さらにとんでもない疑惑が浮上する。それが、前述の官房機密費の流用疑惑だ。
「フォーカス」はこのとき、秀直氏と右翼団体幹部の蜜月会合の写真も公開していた。実は、この愛人は右翼団体幹部とも付き合いがあって、秀直氏は交際の一部始終を握られていたといわれる。そして、秀直氏は官房長官を辞任したあと、新潮社と「フォーカス」を名誉毀損で訴えたのだが、その訴訟の過程で、新潮社側が“女性問題で脅された秀直氏が右翼団体に対して官房機密費から多額の金を支払った”と主張したのだ。
実際、裁判所が内閣官房に照会すると、なんと、秀直氏が在任中の2000年7〜8月の2カ月間で実に合計2億2000万円もの機密費を受け取っていたことが判明。当然、この官房機密費が右翼団体への“口封じ”に流用された可能性が濃厚になった。一方の秀直氏は私的流用を否定し、もともとブラックボックスである機密費の使途までは公表されなかったのだが、しかし、この疑惑を裏付けるように、「週刊文春」(文藝春秋)04年2月19日号では当時の森派(清和会)関係者が絶対匿名を条件にこんな証言をしている。
「中川のある側近と慰労会を兼ねて食事に行きました。『大変だったな。大丈夫なのか?』と訊くと、『もうカタはつきました』という。お金のことだとピンと来て、どれぐらい掛かったのかと問うと、黙って片手を広げました。中川は婿養子で夫人に頭が上がらない。いつもお金を工面するのに苦労していました。もし仮にあれが五千万円を意味するのなら、自分の財布から出すのは不可能だと思います」
ようするに、中川秀直元官房長官のスキャンダルは、国会議員の不倫などというレベルではない、まさに政治と公金の私物化という大問題だったのである。