もちろん、医療費が今後増えていくことは間違いない。しかし、ここで問題にするべきは「財政を圧迫するから医療費がかかる病気は自己責任で」などというものではけっしてない。むしろ、国民に保険料の負担を強いてきたことによって起こっている“弊害”のほうだ。
日本では2003年に小泉純一郎首相が行った医療制度改革によって、先進国のなかでも際立って高額だった病院窓口での医療費自己負担割合が2割から3割へと引き上げられ、国庫負担率は引き下げられる一方で家計支出が増した。また、貧困化が進み保険料を払えない人も増え、病院にかかりたくてもかかれない受診抑制も起こっている。その結果、本来なら早い段階で行えば最小限に抑えられた治療費が、重病化してさらに治療費がかかってしまうという悪循環を生み出してしまった。つまり、いま問題しなければならないのは、「医療費亡国論」などではなく、国民への負担が高まったがゆえに弊害を生んでいる現行の政策についてだろう。
現に、先進国のなかでもっとも医療費が高いアメリカでも、日本と同じように医療費抑制が唱えられているが、ミネソタ州ヘネピン郡では、プライマリーケアを受けられず悪化してから受診するという治療費がかさむ悪循環にあった貧困層を郡や医療機関が連携することで変調をきたす前に掬い上げるという方法で、医療費削減を実現したという(朝日新聞2016年8月15日)。これは、健康を自己責任にするのではなく、地域で連携して市民の健康を守る取り組みを充実させることのほうがコスト減につながるという一例だ。
このような現実に目を向けず、差別思想を正当化するために「医療費亡国論」を喧伝する輩に惑わされてはいけない。そして、長谷川や曽野のような主張こそこの国を滅ぼすというのは間違いないだろう。
(編集部)
最終更新:2017.11.12 02:45