賛同者になったことは「不注意だった」と認める溝口氏だが、しかし、「放送法遵守」と聞かされて、そう受け取るのもわからなくはない。何度も指摘しているように、政治権力からの自立こそが放送法の精神だからだ。
溝口氏は冒頭に挙げたように「最近は安倍首相を立てるような報道やニュースばかり」「もっと権力を批判しなきゃいけない」「キャスターが特定の立場で批判的発言をしたっていい」と語ったあと、こう続けている。
「放送法1条は放送の自律の保障をうたっている。これが前提です。高市早苗総務相の『停波』発言はそれこそナンセンス。真実と自律を保障する放送法を盾に、政治権力と戦わなきゃ」
まったくの正論だ。むしろ、おかしいのは中立のふりをして「放送法遵守」を叫びながら、真っ当なマスコミの任務を「偏向報道」などと言って攻撃している「視聴者の会」のほうだろう。しかも、「視聴者の会」の活動と連動したかのように飛び出した先日の高市総務相による「電波停止」発言は、放送局が政権批判をした場合に停波をチラつかせるという、露骨な恫喝、報道圧力であった。本サイトでも紹介したが、池上彰氏も言うように、これは欧米ならば政権の首が飛ぶような発言だ。そんな民主主義国家として極めて異常な事態がこの国で起きているのである。
実際、こうした「視聴者の会」や安倍政権による報道の自由を侵害する暴挙に、多くの人が立ち上がり始めた。先月には田原総一郎氏や岸井氏、金平茂紀氏などテレビ業界に身を置くジャーナリストら7人が、高市「電波停止」発言に対する抗議声明を出した。その記者会見のなかで、岸井氏は「視聴者の会」についても「(視聴者の会の理屈は)全然間違いだし、ああいう低俗なアレにコメントするのは時間の無駄」「本当に低俗だし、品性どころか知性のかけらもない」と断じた。
また、今月13日には、BPOの年次報告会で、放送倫理検証委員会の川端和治委員長が、高市発言に対し「制裁を受けるのではと考えて、(放送局が)萎縮することで、国民の正しい判断ができなくなる」「伝えるべきことが伝えられなくなれば、民主主義は機能しない」と牽制し、「政治的公平を政府が決めて規制するのは、憲法が保障する表現の自由と180度逆だ」と憲法違反であると強く批判した。
しかし、こうした声にハナから耳を貸す気がない「視聴者の会」と安倍政権による報道圧力は、夏の参院選に向けて、これまで以上に強化されていくだろう。もちろん、その先には、安倍首相の悲願である改憲と9条の解体がある。
事実、「視聴者の会」の小川氏は、「WiLL」(ワック)15年4月号に寄稿した文章のなかでも、従来の政府見解を変えて“一つの番組だけでも「政治的に公平」でないと判断しうる”という回答について「高市大臣自身の息遣いの感じられる誠実な回答」とヨイショしたあげく、今後、『報道ステーション』(テレビ朝日)、『NEWS23』(TBS)、『ニュースウオッチ9』(NHK)の三つの番組に絞って、手前味噌の調査団体によって“監視”していくと明言している。まさに安倍政権のために批判報道を“狙い撃ち”するという宣言だ。