そもそもアベノミクスは、「異次元緩和」という第一の矢を放ち円安にする。第二の矢「公共事業拡大による国土強靭化」を行ない内需を底上げ、8%への消費増税の駆け込み需要もあり景気が拡大する。その間に円安により、輸出中心や海外拠点のある大企業を中心に追い風が吹き、国内景気全体を引っ張っていく。さらに、「成長戦略」という第三の矢で次々に規制緩和を行ない、今頃は、新しい産業が次々と出てきているはず……、いったいどこでアベノミクスは失敗したのか。
服部茂幸・福井県立大学経済学部教授(専攻・理論経済学)が書いた『アベノミクスの終焉』(岩波新書)は、客観的なデータで、「アベノミクスによって日本経済は回復しつつある」というシナリオのいくつもの“つまずき”を明らかにしている。
その“つまずき”の1つとして挙げているのが、第一の矢による、円安の下での輸出拡大の失敗だ。
「金融緩和の目的の1つは円安によって輸出を拡大させることであった。浜田(宏一・米エール大名誉教授(内閣官房参与))も岩田(規久男・日銀副総裁)も日銀が金融緩和によって円高を防がないでいることが、日本の製造業の国際競争力を損ね、苦境を作り出していると述べていた。安倍首相も、二〇一三年四月の党首討論で、一三年度の経常収支が間違いなく四兆六〇〇〇億円の黒字になる。そして、それは間違いなく賃金に変わると断言した」(同書より/カッコ内は引用者による)
しかし、現実には輸出が増えることで増加するはずの13年度の経常収支は8000億円の黒字にすぎなかった。
「黒字ではあるが、安倍首相の約束と比べれば遥かに小さい。しかも、一四年第一・四半期の経常収支(季節調整値)は一兆四〇〇〇億円の赤字である。一年に換算すると、五兆円を超える大幅な赤字である。(略)円安にもかかわらず、輸出が伸びず、円安に加えて経済成長率が低迷しているのに、輸入が急増しているのが現状である。深刻な状況といえよう」(同書より)
同書では、輸出が伸びない理由に、中国をはじめとする世界的なバブルの終焉をあげているが、そのほかに「海外での現地生産が進んでいる」ことが大きな要因だと最近の新聞各紙でも分析されるようになった。
つまり、円安のメリットはアベノミクス推進論者が喧伝していたほど大きくはなかったことがわかる。4兆6000億円の黒字が賃金に変わるという安倍首相の約束はどこに行ったのか!?