いったいこの無茶苦茶な逮捕劇の裏に何があるのか。実は、今回の逮捕をめぐっては、もうひとつ、ある狙いがあったのではないかと指摘されている。それは安倍政権批判デモへの圧力だ。
12日の日曜日、東京・新宿区をはじめとして名古屋や大阪など全国各地で安倍首相の退陣を求める市民デモが行われた。たとえば東京の「Occupy Shinjuku 0112」には主催者発表で3000人の市民が参加し、「桜を見る会」問題などの安倍首相の私物化を批判、自衛隊中東派遣などの“戦争政策”に抗議の声をあげていた。
実は、男性はこのデモへの参加を予定しており、運転手として東京都公安委員会へ届け出ていたという。そんな大規模な“反安倍政権デモ”の3日前に、公安が突然、男性を「車庫飛ばし」という“微罪”で逮捕したというわけである。
このタイミングだけ見ても、今回の無理やりすぎる逮捕は“安倍政権批判デモ”にプレッシャーをかけ、参加者に萎縮効果をかけるため、デモの中心人物や関係者を狙い撃ちしたとしか思えない。
男性は昨年7月20日、東京・JR秋葉原駅前で「安倍やめろ!」の声が響いた抗議行動の際にも当該ワゴン車を使用していたという。公安警察は政権批判デモなどで常時カメラを回し、参加者らを記録している。その際、収集した男性のワゴン車のナンバーから強引に「車庫飛ばし」へと結びつけ、12日の“反安倍政権デモ”直前に逮捕することで“見せしめ”にした。そういうことだろう。
男性の弁護人である神原元弁護士は、本サイトの取材に対して「そもそも、警視庁公安部が『レイシストをしばき隊の中心メンバー』などと発表したこと自体、保護されるべき個人情報の侵害です」と強く問題視する。
「団体への所属は信仰する宗教等と同じく、個人の思想信条に関わる情報です。憲法で国がこれを侵すことは禁じられており、公的機関は原則として、思想信条情報の収集・保管・利用等の取り扱いをみだりに行なってはなりません。ところが公安警察は、2010年に発覚したイスラム教徒の個人情報リスト漏洩事件でもわかるように、根拠もなしに『テロリスト』扱いするなどして無関係の人々の詳細な個人情報を好き勝手に扱ってきました。今回の件でも当然、論点になるでしょう」
さらに神原弁護士は、公安や捜査当局は「車庫飛ばし」のような被害者のいない「形式犯」を政治的な“弾圧”に利用してきたと話す。
「以前から『車庫飛ばし』は朝鮮総連や朝鮮学校関係者の逮捕に使われていました。ほかにも住居侵入や、外国人の場合は旅券不携帯などがしばしば利用されます。こうした事例では当局による拡大解釈や恣意性が見られる。捜査当局が弾圧目的で微罪を利用していると言っていいと思います。男性が『車庫飛ばし』で逮捕された件もまた、12日のデモの妨害が目的だったと疑われても仕方がありません」(神原弁護士)