いわゆる「逆コース」の流れで、「日の丸」「君が代」は政府主導で復活へと向かう。国内の右派勢力は国旗・国歌制定運動や紀元節復活運動などを展開するなか、岸信介内閣だった1958年の学習指導要領改訂で、戦後GHQにより廃止されていた「修身」の授業が「道徳の時間」として復活、さらに戦後初めて「日の丸」「君が代」が登場する。その後、1964年東京五輪での国威発揚を経て、77年告示の学習指導要項で掲揚と斉唱が「指導するものとする」へ格上げ。時同じくして日本会議の前身団体らが“成功体験”として誇る1979年の元号法制定など「右傾化」のムーブメントが続く。1985年8月の中曽根康弘首相による靖国神社参拝の約2週間後には、文部省は「日の丸」掲揚・「君が代」斉唱を「徹底」せよとの通知を出している。
さらに、1999年の国旗・国歌法によって「日の丸」「君が代」が法文上で制定されると、起立斉唱を拒否する教職員に対する“弾圧”が加速。当時の石原慎太郎都知事は「斉唱を中止するいわれはない。嫌なら出てきゃいい」と公然と攻撃し、2003年10月に東京都教育委員会に国旗掲揚と国歌斉唱、ピアノ演奏を義務付ける通達を出させ、これによって多数の教職員が懲戒処分にされた。他自治体でも、たとえば2011年には当時の橋下徹大阪府知事のもと、教員に起立斉唱を義務付ける条例が成立。「君が代」を歌っているかチェックし、校長が脅威に報告することを求めるなど異常な監視体制が敷かれた。
「産経ニュース」(2018年1月29日)によれば、1997〜2016年の間に「日の丸」掲揚・「君が代」斉唱に関して処分を受けた公立学校教員の数は1561人。年度別で見ると、国旗・国歌法制定や石原都政下での“義務通達”があった2000年前後と比べると近年では処分数が著しく減少しており、産経は処分の不当性をめぐって争われた諸裁判をめぐる最高裁判決(2007年「日野『君が代』伴奏拒否訴訟」での合憲判断)等の影響を指摘しているが、逆に言えば、政治による公立教職員への「日の丸」「君が代」の強制が完了し、現場が極めて萎縮しているということだろう。
まさに「日の丸・君が代ファシズム」とでも呼ぶべき状況だが、これを拡大しようとしているのが安倍首相だ。第一次政権での教育基本法改悪など、国家主義的な教育への介入をむき出しにしてきた安倍氏だが、自民党下野時の2012年には国会で「オリンピックのときだけでなく、自然に国歌を奏で、歌う、そんな教育現場の実現に向けて、我々自民党は、もう一度全身全霊をささげる用意がある」(10月31日衆院本会議)と宣言。再び政権に返り咲くと、その言葉どおり、“君が代・日の丸強制”の範囲拡大に着手した。