周知のように、10日の閉会中審査で、小野寺五典防衛相は北朝鮮がグアムに向かってミサイルを発射した場合、「存立危機事態にあたる」として、集団的自衛権を行使できると答弁したのだ。
マスコミはさも当たり前のように報道しているが、こんなデタラメな解釈を許していいのか。安倍政権は一昨年の安保法制論議の過程で、集団的自衛権行使の要件のひとつ「存立危機事態」についてこう定義していた。
〈我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態〉
いったいこれのどこをどう解釈したら、今回のグアムへのミサイル攻撃が存立危機事態になるのか。
ミサイルが日本の上空を通過するのは由々しき事態だが、それだけで「ただちに国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるような事態」でないのは火を見るより明らかだ。また、小野寺防衛相は「(グアムが攻撃を受けて)米側の抑止力・打撃力が欠如することは、日本の存立の危機に当たる可能性がないとは言えない」と言い張ったが、北朝鮮が今回、ミサイルを撃ち込もうとしているのは、グアムから30〜40キロの距離にある海。そんなところに着弾しただけで米軍の抑止力が欠如するはずがないだろう。
いや、仮にグアム基地に着弾したとしても、米軍は反撃能力をもった部隊や艦船を朝鮮半島に展開しており、抑止力や打撃力が欠如するなんてあり得ず「存立危機事態」には当たらない。
実際、安保法制を強行採決した国会で、安倍首相が存立危機事態の具体例として挙げたのは、ホルムズ海峡が封鎖され電力不足に陥ったケースや、ミサイル監視を行っている米国の艦艇が攻撃を受けたケースのみだった。
それが、いきなりグアムへの攻撃まで「存立危機事態」に当たるというのである。こんな論理がまかりとおったら、とにかく米国が他国から攻撃された場合はどんなケースでも集団的自衛権を行使でき、いっしょに報復戦争に参加できるということになってしまう。
実はこうした拡大解釈は安保法制成立前の国会論戦時から懸念されていた。というのも、安倍政権は具体例としては前述のように「米国艦船に攻撃が加えられた」ケースなどしか口にしなかったが、その後、「相手国が我が国にミサイル攻撃をしてくるリスクがない場合はどうか」「相手国が我が国に攻撃の意思を示していない場合はどうか」といった質問を受けると、安倍首相も中谷元防衛相(当時)も「危機はミサイルだけでない」「攻撃意思が示されなくても総合的に判断する」などと答弁。存立危機事態になる可能性を排除しなかったからだ。
おそらく、この時点から、安倍政権は米国に攻撃が向いたら、即、米軍の一部隊として報復戦争に加担できるようにするという意図をもっていたのだろう。そして、今回の危機に乗じて、さっそくその企みを現実化しようとし始めたということだろう。
しかも、この拡大解釈による集団的自衛権行使がもたらすのは、日本の憲法や平和主義の危機だけではない。現実問題として、国民の生命や財産を危機にさらしかねないのだ。