今年になり『殉愛』の出版差し止めと名誉毀損の裁判が始まった。東京弁護士会に人権救済申し立てもされた。
もちろん常識的に考えても、百田の言い分にほとんど理がないこと、「全てが真実」といい切った『殉愛』に多くの“事実でない”ことが盛り込まれていることは明らかだ。一切取材もせずにたかじんの長女を貶め、さらにツイッターで人権を侵害したことも。
だが、この変化は百田が自らの非を認めたからではないだろう。それよりも『殉愛』騒動をきっかけに自分が社会的なステイタスを失ってしまったことへの失望がこの泣き言ツイートを書かせたのではないか。
その最大の原因と思われるのがNHK経営委員の退任だ。政府サイドは再任を求めたが百田自身が辞退したと報じられた。しかしこれは言葉通り受け止めるのには無理がある。
「実は百田さんに対して、官邸サイドも扱いに困っていましたからね。それまでも数々の暴言で困惑していましたが、『殉愛』問題で保守層からも見放されてしまった事が大きい。以降は露骨に距離をとるようになった。実際、選挙の前にある雑誌から安倍首相と百田との対談のオファーがあったらしいんですが、官邸はにべもなく断ったらしい。退任についても、実際は官邸から遠回しにシグナルを出していたらしいですよ。」(大手新聞政治部記者)
これまで応援団として“飼って”おいた百田を、トラブルに見舞われ“用なし”になればポイと捨てる。イスラム国の人質を見捨てた安倍首相らしい所業だが、百田にしたら相当ショックだったのではないか。
「百田氏の場合はもともと右派論客だったわけではなく、むしろ、『WiLL』誌上で当時、下野していた安倍首相にラブコールを送って対談をしてから政治にのめり込んだという感じですからね。そのベースには一貫して『おれは安倍首相と仲がいい』というのがあった。それが揺らいだというのはかなりショックでしょう」(月刊誌編集者)
さらに、この弱気の背景には「週刊文春」でスタートした連載小説「幻庵」も関係しているのではないかともいわれている。囲碁の世界を描いた作品だが、なにしろ「読みにくい」と評判は散々。しかも連載第一回目にして内容に“誤報”さえ見つかっている。
「百田はこれまで作品が売れることはもっとも大切なことで、売れない小説家をバカにするかのようなコメントをしてきた。『売れる小説は多くの人が喜んだ小説であり、売れない小説は多くの人が喜ばなかった小説だからだ』とね。しかし『幻庵』が単行本になっても、おそらくこれまでのように売れることは期待できないのは自分でも自覚しているのでしょう。新潮社の『フォルトゥナの瞳』も売り上げは振るわなかった」(文芸担当編集者)