「森友加計は朝日の捏造」とした小川榮太郎の安倍擁護本を東京地裁が14カ所も「真実性なし」と認定! 選挙に利用した自民党の責任は

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「森友加計は朝日の捏造」とした小川榮太郎の安倍擁護本を東京地裁が14カ所も「真実性なし」と認定! 選挙に利用した自民党の責任はの画像1
小川榮太郎著『徹底検証「森友・加計事件」』


 小川榮太郎氏が書いた安倍前首相の擁護本『徹底検証「森友・加計事件」─朝日新聞による戦後最大級の報道犯罪』(飛鳥新社)をめぐって、朝日新聞社が小川氏、飛鳥新社を訴えていた裁判で、小川氏、飛鳥新社と朝日新聞がともに一審の判決を不服として控訴した。

 しかし、3月10日に東京地裁であった一審判決は、朝日新聞社の全面勝訴、小川氏サイドの全面敗北ともいえるものだった。

 朝日はこの訴訟で、小川氏の著書には事実に基づかない名誉毀損にあたる記述が15箇所あると主張していたのだが、東京地裁は判決文で、そのうちなんと14箇所について、「真実性が認められない」「名誉毀損として成立する」と判断。小川氏と飛鳥新社に200万円の支払いを命じたのだ。

 15箇所中14箇所が真実性が認められないって……。しかも、残りの1箇所も裁判所は事実だと認めたわけではなく、社会的評価を低下させるものでないとして、真実性の判断をしなかっただけだ。

 まるで裁判所がデマ本と認めたような判決だが、しかし、同書の中身を考えたらこの判決も当然といわざるをえないだろう。

 この『徹底検証「森友・加計事件」』が出版されたのは、2017年10月。森友学園問題、加計学園問題が発覚してから半年たっても、安倍首相(当時)は疑惑についてまともな説明をせず、追及を封じ込めるために解散総選挙を強行するのだが、その投票日直前に“森友加計報道の検証本”として大々的に販売された。

 著者の小川榮太郎氏はもともと、自民下野時に安倍氏を再び総理にするための草の根運動で事務局的な役割を担い、2012年秋の自民党総裁選直前に『約束の日 安倍晋三試論』(幻冬舎)という安倍PR本でデビューした人物。その後も「放送法遵守を求める視聴者の会」なる団体を立ち上げて、政権批判報道に圧力をかけるなど、露骨な安倍政権アシスト活動を行ってきた。また、同書の出版元の飛鳥新社も、安倍首相べったりの極右雑誌「月刊Hanada」を発行している出版社だ。

 このコンビで出版された本なのだから、露骨な安倍首相の擁護本であることは予測がついたが、しかし、実際の中身は予想以上のトンデモだった。

 なにしろ、森友加計事件は安倍首相と一切関係がなく、朝日新聞が安倍首相を陥れるため疑惑をねつ造したなどと主張していたのだ。たとえば、書き出しからこんな感じだ。

〈安倍晋三は「報道犯罪」の被害者である。
 半年以上、まるで「安倍疑惑」であるかのような攻撃が執拗に続いた森友学園問題、加計学園問題は、いずれも安倍とは何ら全く関係のない事案だった。
 森友問題は、(略)国政案件とさえ言えない。利権がその背景にあるわけでもない。
 加計学園問題に至っては「問題」すら存在しない。〉

 そして、〈「もり・かけ」疑惑とは国を巻き込んでの「冤罪事件」だった〉として、こう断言するのだ。

〈加害側には冤罪事件を計画、実行した「主犯」が存在するのである。
 いずれの案件も、朝日新聞である。〉
〈何よりも衝撃的なのは、仕掛けた朝日新聞自身が、どちらも安倍の関与などないことを知りながらひたすら「安倍叩き」のみを目的として、疑惑を「創作」したことだ。〉

小川榮太郎は裁判で“ねつ造は虚偽を知りながら報道したという意味でない”と主張も、裁判所は一蹴

 周知のように、森友問題は朝日新聞のスクープだが他の新聞・テレビ・週刊誌も一斉に後追い報道していたし、加計事件については、一番報道が早かったのは、『週刊現代』、続いてリテラである。『週刊文春』もスクープを連発していた。それをすべて朝日の仕掛けた策謀として一元化してしまうとは──。これだけでも、その粗雑な陰謀論に唖然とするが、そのあともひどい。いったいなにを根拠に、と読み進めても、具体的な根拠はほとんどなく、陰謀論や妄想としか思えない分析をただただ書き連ねているだけなのだ。

 たとえば、その典型が加計学園問題に火をつけた文科省の「官邸の最高レベルが言っていること」文書報道をめぐる記述だ。この文書は朝日新聞が5月17日朝刊でスクープするのだが、実はその前夜、16日午後11時に、NHKが『ニュースチェック11』で類似の文書を肝心の「官邸の最高レベル」という記述を黒塗りする形で報道していた。すると、小川氏はその一事をもって、こんな推理をまくしたてるのである。

〈ある人物が朝日新聞とNHKの人間と一堂に会し、相談の結果、NHKが文書Aを夜のニュースで、朝日新聞が翌朝文書群Bを報道することを共謀したとみる他ないのではあるまいか。〉

 そのほかの記述も同様だ。〈単純な事件報道ではなく、最初から情報操作しなければ「事件」にならない案件〉という“論点先取”や、〈上層部から使嗾があった上で現場が前川に取材しているのであれば、スクープの判断が同時に可能になるだろう〉という“後件肯定の誤謬”、〈朝日新聞が明確に司令塔の役割を演じ、全てを手の内に入れながら、確信をもって誤報、虚報の山を築き続けてゆく〉とか〈加計問題は比喩的な意味でなく実際に朝日新聞演出、前川喜平独演による創作劇だったのである〉といった記述については、もはや妄想のレベルである。

 いずれにしても、『徹底検証「森友・加計事件」』は、安倍応援団が森友加計疑惑にフタをしようと、朝日新聞をスケープゴートにしたとしか思えないシロモノだった。

 そのためか、朝日新聞の対応も今回はいつになく強硬だった。同書に対して、朝日新聞はまず、小川氏と飛鳥新社に謝罪と訂正を求める抗議文を送付。しかし、小川氏および飛鳥新社が謝罪訂正に応じなかったため、朝日新聞は同年12月、具体的な記述や「朝日新聞による戦後最大級の報道犯罪」というタイトル部分、冒頭の「無双の情報ギャング 朝日新聞に敬意を込めて捧ぐ」という献辞など、15箇所を「事実に基づかない誹謗中傷」「虚偽の事実摘示に基づく名誉毀損」にあたるとして、小川氏、飛鳥新社に朝日新聞など全国紙6紙への謝罪広告の掲載、5000万円の損害補償を求めて訴えたのである。

 一方、小川氏らは裁判で、こうした記述についていまさら、事実の摘示でなく論評や分析にすぎないと主張。朝日新聞が「疑惑を創作」「ねつ造」したという部分についても、裁判では“虚偽であることを知りながら、敢えて報道したとの内容を読み取ることはできない”といった反論をしていた。

 しかし、裁判所はそうした主張をすべて一蹴し、前述したように15箇所のうち14箇所について、「真実性は認められず」「名誉毀損が成立する」と判断したのである。

名誉毀損が認定された小川榮太郎の本を自民党が5000部以上購入、2017年の総選挙でばらまいていた

 そういう意味では、今回の判決は、当時、安倍応援団がしきりにふりまいていた安倍擁護が事実とかけ離れた陰謀論にすぎないことを客観的に証明する意義あるものだったといえるだろう。

 しかし、こうした判決が出たことで責任を問われるべきは、安倍応援団だけではない。なぜなら、15箇所中14箇所が裁判所に「真実性が認められない」とされたこの小川氏の著書『徹底検証「森友・加計事件」』は、2017年10月の解散総選挙で、安倍自民党が疑惑の打ち消しと宣伝に使っていたからだ。

 同書の奥付にある発行年月日は2017年10月22日、解散総選挙の投開票日だが、実際の発売日は18日で、都内では16日ごろから書店の店頭に並べられていた。

 しかも、その選挙戦最終盤だった18日ごろには、東京と大阪の電車に同書の中吊り広告を掲載。選挙運動が禁止されている投開票日も、少なくとも毎日新聞と日本経済新聞の朝刊に広告が打たれ、「安倍総理は『白さも白し富士の白雪』だ!!」「このままでは国の存立が危うくなる!」「朝日新聞による戦後最大級の報道犯罪」「“スクープ”はこうしてねつ造された」などの文言が踊った。

 このあまりのタイミングの良さに、同書をめぐっては、当初から、安倍官邸や自民党が選挙のために応援団を使って仕掛けたのではないかという疑念がささやかれていた。

 しかも、自民党は実際に、この“安倍擁護・反転攻勢本”を大量に購入し、所属議員や支部などに書面付きで送っていた。

「フライデー」(講談社)12月8日号が、その書面の画像とともに報じている。記事では、自民党ベテラン秘書が「党が全部で5000部以上購入したそうです」などとコメント。書面には、〈同書では、安倍総理への「森友・加計疑惑」が、一部マスコミによる国を巻き込んでの「冤罪事件」であった全貌を、事実の積み重ねにより分かりやすく実証しております〉との紹介に続き、このように書かれていた。

〈つきましては、ぜひご一読いただき、「森友・加計問題」が安倍総理と無関係であることの普及、安倍総理への疑惑払拭にご尽力賜りますようお願い申し上げます〉

 ようするに、同書を使って議員、各支部に“森友・加計学園問題は冤罪”“朝日新聞の報道犯罪だ”とアピールせよという号令をかけたということらしいのだ。しかも「フライデー」の記事によれば、安倍首相と距離を置き、加計問題への対応についても批判している石破茂元幹事長の事務所と代表を務める鳥取県連には、同書は届けられていなかったという。

花田編集長は自民党との共謀を否定も、5000部近い買い上げは認めていた

 いずれにしても、自民党が『徹底検証「森友・加計事件」』を定価1500円で5000部購入していたとすれば、単純計算で750万円もの金が一気に版元の飛鳥新社に転がり込んできたことになる。割引があったとしても数百万円にはなったはずだ。

 一方、それに先立つ選挙期間中には、前述したように同書の中吊り広告や新聞広告が大々的に打たれた。雑誌ならまだしも、中堅出版社が単行本の広告で中吊り広告を打つことはめったにない。交通広告を手がける会社が公開している料金表によれば、2、3日の短期でもJR山手線なら約180万円、東京メトロ全線ならば約250万円かかる。その上、新聞広告となれば、合計で少なくとも数百万円の金が必要なはずだ。

 同書をめぐるこの問題について、リテラは当時、飛鳥新社で同書の出版にかかわった「Hanada」の花田紀凱編集長を直撃している。花田編集長は自民党や安倍官邸との連動については「下衆の勘ぐり」と完全否定したが、自民党が大量に小川氏の著書を大量購入したこと、それが5000部に近い数字だったことは認めた。

 つまり、今回、裁判所から虚偽の事実、名誉毀損が14箇所も認定されたこのデマに満ちた安倍擁護本を自民党が選挙のために大量にまいたのはまぎれもない事実なのだ。選挙民を騙したという意味で、その責任は重大といっていいだろう。

 もちろん、冒頭で書いたように、裁判は控訴されており、結果は確定したわけではない。しかし、一審の経緯を見る限り、結果が覆る可能性は低いといわざるをえない。また、今回の判決では、謝罪広告などが認められなかったためか、朝日側も控訴しており、場合によっては小川氏や飛鳥新社サイドにもっと厳しい判決が下る可能性もある。

 判決が確定したら、朝日新聞やメディアは裁判結果だけでなく、この自民党の責任について徹底追求すべきではないか。

最終更新:2021.03.28 06:36

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