中村文則がジブリの雑誌で語った安倍政権批判に踏み込む理由「言うべきことを言わないのは読者への裏切り」

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中村・青木対談が掲載されている「熱風」


 露骨なまでの新元号発表の政治利用に、現役副大臣による「忖度」発言など、ここ最近、安倍首相による政治の私物化が相次いで表面化している。そして、「総理や副総理は言えないので私が忖度した」と公の場で言い放った塚田一郎国交副大臣の辞任を受け、安倍首相はいけしゃあしゃあと「政治家が語る言葉は真実を語らなければならない」と語り、塚田氏の派閥の長である麻生太郎副総理は質問する記者に「大きな声で言えや!」と苛立ちを露わにして不遜な態度を見せた。

 普通に考えれば、「これまで」なら、こんなあからさまな問題が発生し、その上、政権のツートップから思い上がりも甚だしい発言が飛び出せば、蜂の巣をつついたような騒ぎになっていただろう。しかし、いまの日本社会にそんな空気はまったくない。メディアも改元に浮かれ、忖度事案の暴露を深掘りしようとしない。

 そんななか、これらの問題にはっきりと物申したのは、作家の中村文則氏だ。

 中村氏は安倍首相が新元号発表で「前に出すぎた」パフォーマンスを繰り広げたことを〈ちょっとさすがに、あれは考えられない行為だった〉と指摘し、〈会見での質疑応答で、一億総活躍社会だの、働き方改革だの、抵抗勢力だの、政策発表のようなことまでやった首相は前代未聞〉と批判。さらに、新元号発表と同日に塚田氏が発した「忖度」発言と、新元号が〈政治の腐敗に嫌気がさしたことが背景にある「帰田賦」から結果的に選定〉されたことに触れ、〈新元号と共に、古い忖度政治を終わらせ、新しい時代のため今の内閣は身を引いたらどうか〉と引導を渡したのだ(毎日新聞愛知県版4月6日付)。

 中村氏といえば、2014年に発表した『教団X』(集英社)が50万部を超えるベストセラーとなった売れっ子でありながら、安倍政権批判をはじめとして社会的問題に踏み込んだ発言をおこなっている数少ない作家。そうした姿勢は作品にも反映され、現在は東京新聞や西日本新聞などで第二次世界大戦時を舞台にした「逃亡者」を連載中。また、2017年発表の『R帝国』(中央公論社)では全体主義国家を描き、政治の腐敗から民衆が目を背けて「真実ではなく半径5メートルの幸福」に逃げ込むという、まさに現在進行形のディストピアを描いた。

 森友・加計問題のような政治の私物化があきらかになっても、現役副大臣が「私が忖度した」と断言しても、政府統計の不正まで表沙汰になっても、なぜか政権への怒りが湧き起こらない社会──。こうした現状について、中村氏はスタジオ・ジブリが発行する小冊子「熱風」3月号に掲載された、ジャーナリスト・青木理氏との対談でこのように語っている。

「ものすごく大きなことから言うと、日本人って常に圧政を食らいながら生きてきたんでしょうね。古くは一揆だって徹底的に弾圧された。大正デモクラシーも結局は潰されてしまったし、戦後の60年、70年の安保闘争も最終的にはあさま山荘事件(1972年)などに行き着いてしまった。だから政治というものをあまり深く考えない方がいいという空気が、おそらく僕らよりも上の世代からあった気がします」
「現在の沖縄をめぐる問題だって、本当はみんな怒るべきなのに、怒ってもなかなか変わらない。一方で、何もしない自分への罪悪感を誰もが根底に持っていると思うんです。その罪悪感を感じたくないから見ないふりをするという人もいれば、罪悪感が湧いてきてしまうから逆に基地を肯定する、これは間違っていないんだと言って罪悪感を消そうとする心理になる人も多いんじゃないかと思いますね」
 

中村文則が分析する歪な「ナショナリズム」と「ヘイト」が台頭する構造

「言っても変わらないことを言いつづけるって、実はものすごいストレスなんです。言わない方がはるかに楽で」と中村氏は言う。そうしたなかで「半径5メートルの幸福」に浸る人がいる一方、「誰もが自分の仕事に夢や希望を抱けるような社会ではない」現状のなかで喪失した自信を取り戻すために、手っ取り早い「ナショナリズム」が台頭している──。中村氏はそう指摘するのだ。

「日本人は優秀だ、先の大戦は間違いじゃなかった、オレたちはなぜ謝罪ばかりしなくちゃならないんだと。そういう面で自信を抱くことで気持ちもちょっと強くなる、安定するという人間の感情を煽る連中も増えてきたからだと思います」

 テレビをつければ「韓国は反日」と連呼され、書店にはヘイト本がずらりと並ぶ昨今。最近では厚労省のキャリア官僚が韓国の空港で「韓国人は嫌いだ!」と叫んだり、日本年金機構の世田谷事務所長がSNSでヘイト発言を振りまいていたことが判明するなど、完全にタガが外れた状態にある。こうした現状についても、中村氏は「ある意味で差別は一種のタブーですが、そういったことをあえて口に出すというか、「オレ、言ってやった」とか「言っちゃいけないことを言ってやった」という係がいて、「あ、あの人、言っちゃったよ」と楽しむような、気持ち悪い快楽を楽しんだりする人もどんどん増えている。すると、それを煽って商売する人も増えるという悪循環に陥っているのが、とくにこの数年の状況」と言及し、「第二次安倍政権からというと語弊があるかもしれませんが、ちょうどそのころから一層顕著になったのは間違いない」と述べている。

 社会に対する不安を、つくり上げた「敵」への攻撃心に向けさせナショナリズムを煽る。しかし、それがなぜ広く受け入れられてしまうのか。中村氏は、その構造をこんなふうに分析している。

「いつの間にこうなっちゃったのかなとも考えるのですが、現実に多くの人は自分を恵まれていないとは思っていないでしょう。むしろ恵まれた側にいると思いつづけたい。いまは給料が低いけど、アベノミクスの成果だかなんだか知らないけれど、いつか上がっていくと思っている。年金がもらえないかもしれないっていうのも、本来は「そんなバカな!」と怒るべきなのに、怒るのがちょっと格好悪い気がするから、自分の責任でやるしかないと考える。そんなのは自己責任だしねという自分、そんなふうに言えるオレって自立しててカッコいい、という……。で、実際に老人になったとき、本当にお金がなかったらどうするのかということは考えたくない。まさに正常性バイアスです。原発だって大丈夫だと思いたいし、考えるのが嫌なので、地震もないし爆発もしない。そう考える方が楽だから見ない。そういうことでしょう」

中村文則が青木理に「数少ないから、励ましあっていかないと」

 これはまさに本質を突く分析と言えるだろう。しかし、中村氏自身はまったく逆で、時代の空気に抗するように発言しつづけている。それは、「大きな流れが一方的に傾いてしまうと、もはや止めることができない」「いま言っておかないと手遅れになるかもしれない」と感じているからだろう。

 だが、もうひとつ、中村氏の背中を押していることがある。それは「言うべきことを言う作家が少ない」という問題だ。

「新聞などに登場するのもメンバーが限られていて、今度はこの人かと言うような感じで、まるで持ち回りみたいになっている。こんな状況じゃなく、みんなが言ってくれるなら、僕もときどきは言うかもしれませんが、これほどは発言していなかったかもしれません。
 それにやっぱり、読者への裏切りだと思うんです。社会について僕が危機感を持っていなかったら、言う必要なんてない。でも、現実にマズいと感じ、この辺で止めておかないと大変なことになると思っていて言わないのは、それはビビって言わないということですよね。それは読者への裏切りじゃないですか。そんなヤツが書いた本、面白いのかと思いますし、おびえて何も言わない、思っていることを言わない作家の本なんて、そんなものが面白いのかって、どうしても考えてしまうんです」

 ヘイトで感情を煽る商売に精を出す輩が跋扈するなかで、こんな真摯な姿勢を持つ作家がまだいたのかと、正直、心を打たれた。しかし、それは同時に、孤独との戦いでもある。中村氏は対談の最後、相手の青木氏に冗談交じりにこう語りかけている。

「そういうジャーナリストの人だって、もはや限られていて、名前を挙げて数えられるくらいしかいない。でも、やっぱり一定数はいるんですよね、きちんとモノを言う人って。青木さんもそうだし、作家でも一定数はいる。それがある意味で希望でもあるし、人間社会の不思議でもある。そこは救いです。とはいえ数少ないから、こうなってくるとお互いちょっと励ましあっていかないとやっていられない。でないと辛すぎます(笑)」

 政治的発言や政権批判が社会においてタブー化するなか、思考停止に陥った現状に真正面からものを言い、いまこの時代が失った「考えること」「想像すること」の意味を伝えようとする。あえて孤独な、警鐘をならす“炭鉱のカナリア”になることを選んだ中村文則という作家に、エールを送りたい。

最終更新:2019.04.08 09:39

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