テクニックを学ぶと「セックス嫌い」になる? レジェンドAV監督・代々木忠が教える本当に気持ちいいセックス

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 印刷
anan_01_160213.jpg
「an・an」(マガジンハウス)2016年2月10日号

 小嶋陽菜(AKB48)と斎藤工がベッドの上でいやらしく抱き合う姿が表紙となっている「an・an」(マガジンハウス)2016年2月10日号が話題だ。ホテルの一室を舞台とした生々しい写真のみならず、「いい女は、みんな色っぽい。エロティックでいこう!!」とのキャッチコピーも踊り、スポーツ新聞にも大きく取り上げられた。誌面企画も、「セックス特集」を恒例にしている「an・an」らしく、セックスレスにいたる理由を男女双方から検証した「脱・セックスレス読本」や、女性のオナニー事情を赤裸々に記事にした「ひとりH新聞」など、「セックス」にまつわる読み物が続く号となっている。

 こういった、いわゆる「HOW TO SEX」的な特集は、もともと男性向けの雑誌によく見られるコンテンツだった。しかし、現在では、女性向け雑誌、しかも、「an・an」のような、どちらかというとオシャレな層が読む雑誌の企画としても定着するようになって久しい。

 その背景には、性に関する情報の氾濫により、男女とも「自分のセックスは相手に満足感を与えられているのだろうか?」と不安になっているからというのがあげられる。だから、一発でその悩みを解決してくれるような、安易な「テクニック」を紹介する企画が後を絶たない。しかし、こういった読み物に踊らされ「セックステクニック」のようなものに固執する傾向が、人々の性生活をよりいっそうダメにして本当の快楽から遠ざけ、「草食化」、果ては「セックス嫌い」といった現象まで引き起こしていると、警告を鳴らす人物がいる。

 それは、AV監督の代々木忠氏だ。代々木忠氏と言えば、60年代からピンク映画制作に携わり、時代がピンク映画からアダルトビデオに変わっても第一線で600本以上の作品を撮り続けた、アダルト業界の生き字引のような存在だ。そんな代々木忠監督は近著『つながる セックスが愛に変わるために』(新潮社)のなかでこんなことを語っている。

〈一口に「セックス」といっても、そこにはいろいろな意味合いが含まれている。大きく分ければ「相手と心からつながるセックス」と「セックスのように見えて、じつは相手の体を使ったオナニー」の二つになると私は思う。
 (中略)前者は「お互いが感情を出して自分を明け渡し、相手と体も心もつながるセックス」のことである。それに対して後者は「目の前に相手がいてもお互いに見つめ合うことなく、自分の妄想と肉体的な刺激だけでイこうとするカラミ」だ〉

「中ではイケないけど、外ではイケます。私、外派なんです」──、代々木監督が女優を面接していると、最近こんなことを語る女性が増えたのだと言う。「外」とはクリトリスでならイケるということを意味し、「中」とは膣内でもイケることを意味する。クリトリスでの絶頂は物理的な刺激によるもので、男の射精にも近く、自慰行為でも得ることができる。しかし、膣内でのエクスタシーはそうはいかない。

〈中でイクために重要なのが、セックスする相手との関係性である。もっと端的に言えば、相手と心でつながれるかどうか。中でイケない子はここができていない。
「こんなことをしたら相手が引くんじゃないか」とか「嫌われたらどうしよう」という迷いや恐怖にとらわれることなく、偽らざる本当の自分を相手の前にさらけ出す。社会的な倫理観や道徳観からすれば「よくそんなことできるな」というところも含めて、自分を相手に明け渡してしまう。そして相手を「愛しい」と感じる……これができてこそ得られる快感が「中でイク」ということなのだ〉

 前述のように、「an・an」のようなカルチャー要素の強い女性ファッション誌までもが「セックス特集」を展開しているうえ、ネットにはそのような性的な情報が一切オブラートに包まれることもなく溢れている。そのような記事を読んでいると読者は「膣内でのオーガズムを体験したことのない人は、女性として生まれてきた楽しみを逃している」といった、脅迫めいた情報を刷り込まれる。そこで、セックスに関するテクニック磨きへと駆り立てられるのだが、前述の通り、膣内でオーガズムを得るために必要なのはテクニックなどではなく、セックスする相手との濃密な関係性・信頼関係なのである。

 それでも、人々の「テクニック」に関する盲信は尽きない。ある撮影で、代々木監督はこんな唖然とした体験をしたことがあるのだそうだ。

 それは、『ザ・面接 VOL.107 セックス好きですが…何か? 看護婦 人妻 お姉さん』(アテナ映像)という作品を撮っていた時のこと。この作品に登場した、看護師のなつみさんは撮影中「あ」「気持ちいい」と声を漏らすほどで薄い反応しか見せなかった。男優もそのことにはもちろん気づいていたのだが、撮影終了後、彼女をフォローするためにも「すっごい気持ちよかったよ」と声をかけた。すると、彼女はこんな驚きの答えを返したのである。

「ひそかに膣バーベルで鍛えましたから!」

「膣バーベル」という膣トレグッズがある。これを膣内に入れることで、恥骨から尾てい骨にかけての筋肉を鍛えられ、膣の締まりをよくするトレーニングができると喧伝されている大人のオモチャだ。彼女は元カレにもらったという膣バーベルで筋肉を鍛え、その成果を出そうと、セックスの間もずっと膣の締まりを気にしていたのである。挿入中の反応が薄かったのも、締まりに意識を取られていたからであった。

 先ほどから述べている通り、セックスで快感を得られるかどうかは、テクニックなどとは一切関係がない。もちろん膣の締まりも関係ない。「目の前の相手ときちんと向き合えているかどうか」である。しかし、彼女の場合、メディアを通して聞きかじった中途半端な性の知識に溺れて、本当に大事なものを見失っていたのである。

〈膣というものは、ことさら鍛えなくても感情を込めて相手と向き合えば、自然と男のものを包み込むように締まる仕組みになっている。締めることに気を取られてセックスに集中できないでいると、気持ちいいセックスから遠ざかるばかりか、男も離れていくだろう。
「締まりのいいアソコ」になりたいのなら、自分に正直になって思いっきり欲情し、相手を愛しいと思ってセックスをするだけでいい。すると、分離していた肉体と感情が一体になって、今よりももっと感じやすい体になるだろう〉

 この「テクニック偏重」のせいで目の前の相手とつながり合うことを怠りダメになってしまうのは、男の場合も同じである。それは、一般の男性だけにとどまらない。セックスに関するプロフェッショナルであるAV男優ですらそうなのだ。

 長年、アダルト業界に関わる代々木監督は、〈ある時期から男優たちが育たなくなった〉と語る。加藤鷹、チョコボール向井、太賀麻郎、日比野達郎など、かつてのAV業界には、女優以上に有名なスター男優たちが多くいたが、現在ではそのような存在は少ない。

 こうなってしまったのは、アダルトビデオ業界そのものが良い意味でも悪い意味でも成熟したからだ。黎明期は、男優も女優も監督も、関わるクリエイターたちそれぞれが刺激的で挑戦的なものをつくろうとしていたが、現在はメーカーがそれを許さない。

〈守りに入ったメーカーは、法律に抵触しない範囲でめいいっぱい刺激的な作品を生み出すためのマニュアルを作成し、それに沿って撮るようになる。彼らにとって重要なのは、見た目がいい女の子を使って、マニュアルどおりに撮れるかどうかだ。フェラチオをしているときの女の子の目線までもがマニュアル化されているのだから、作家性の強い監督や個性的な男優などは邪魔な存在でしかない。だから、そういう監督は淘汰され、ある時期から男優の個性も消えていった。そして、監督の指示なしでは動けない人たちが増えていったのである〉

 男優にはメーカー側から「男優は絶対に声出すな」「顔を映すな」「抜き差しだけ見せろ」という指示が飛ぶ。本のなかでは、ある男優の証言として、こんな言葉も記されている。

「多くの現場では、男優は対女の子じゃなくて、ディレクターに気が行ってる。プロデューサーの意見に沿ったり、ディレクターのOKをもらうために仕事してるようなもんなんです。だから目の前の女の子にはぜんぜん気が行かない」

 目の前の女性と向き合わずにセックスすることを強いられるAV男優たちはどうなるのか? そう。中折れしてしまうのである。代々木監督の作品には、挿入後すぐに中折れしてしまうことから「中折れ委員会」(鈴木一徹・花岡じった)と名付けられたチームが出てくるが、彼らが中折れしてしまうのも、まさしくカメラや監督の動きを必要以上に気にしてしまうからであった。それを証明するかのように、乱交シーンの撮影で、自分にクローズアップされない時は、「中折れ委員会」も中折れしないのである。

 現在は、若者たちにセックスの仕方を教える教科書として、アダルトビデオがその立場を担っているような歪んだ状況にある。AVでは、電マなどを使った激しい前戯、アクロバティックな体位などが描かれ、ユーザーも実生活でそのセックスを真似しようとする。しかし、それはあくまでパフォーマンスであり、見世物。本当に気持ちのいいセックスのあり方とは違う。にも関わらず、あくまでフィクションであるAVの世界を鵜呑みにした若者たちは、ムリなセックスを試み、結局、「気持ちよくない」と感じる。なかには、むしろ「痛い」と忌避感すら抱いてしまう人も生まれてしまう。

 先ほども述べた通り、セックスで本当に快楽を得るために必要なものはテクニックなどではなく、「目の前の相手ときちんと向き合えているかどうか」だ。であるのにも関わらず、AVで展開されているようなセックスこそが正しいセックスのかたちだという誤解がどんどん広まっていった。そのことに警鐘を鳴らすべく、代々木監督は、日比野達郎と加納妖子・加藤鷹と樹まり子という、実際に恋人関係にある男優女優カップルを出演させた作品をつくっている。

〈かつて私は、まだ性に未熟な若者たちが“顔射”や“駅弁”といったアダルトビデオの真似をしていると知って、見世物ではない恋人同士のセックスを見てほしいと思った〉

 こうしてつくられた作品が『いんらんパフォーマンス 中に出して!』(アテナ映像)である。本来、実際のカップルを出演させることはAV業界にとってタブーとされていたが、代々木監督はあえてそのタブーを犯した。その結果、カメラの前に映し出されたのは、プロの男優女優である彼らが普段演じているセックスとは180度真逆のものであった。

〈アダルトビデオでは挿入部分を見せるために、男優は女優の体に密着しないというのが暗黙のルールになっている。百戦錬磨の彼らだから、そんなことは当然わかっている。だが、本当に愛している相手とのセックスでは、肌と肌を合わせて温もりを感じていたいのだろう。鷹とまり子もピタッと密着した。
 挿入してからも、正常位のまま体位は変わらない。激しいピストン運動もほとんどない。それよりも、お互いの目を見つめ合ってキスをしている時間のほうが断然長いのだ。彼らの瞳は「気持ちいい」というよりも「うれしい」と言っているように見えた〉
〈名だたるプロ男優と有名女優が見せた、限りなくプライベートに近いセックスは、パッと見にはとても地味だった、けれども、そこには圧倒的な説得力があった〉

 普段、派手なパフォーマンスを繰り広げている彼らのリアルなセックスは、実に地味なものだった。そこに「テクニック」などというものはどこにもない。あるのは「相手を見つめようとする気持ち」だけであった。

〈「セックスとはこういうものだ」とか「こうしなければいけない」という、自分が作り上げた規範にとらわれ、知らないうちにそこから逸脱しないようにしている。(中略)セックスのマニュアルを学習するのも、また一つ新たな規範を身につけるようなものである。
 そこに意識が行ってしまうと、自分のセックスを分析するもう一人の自分が生まれる。そんな状態では目の前の相手とつながることはできない。気持ちよくなるためのエネルギーを、分析のほうに回しているのだから。自分を縛る規範など忘れてセックスに没頭できれば、中折れせずにイケるはずだ〉

 セックスのテクニックを学んでも得られるものは何もない。その行為は「目の前の相手を見つめる」という、一番大事な態度を失わせてしまい、「本当に気持ちのいいセックス」から遠ざかる逆効果にしかならないのである。

 ひょっとしたら、これは「セックス」にとどまる話ではないかもしれない。書店に行けば、「話し方講座」「効果的なセールストーク」といった営業スキルなどに関する自己啓発本がたくさん売られている。これなども、そのテクニックを身につけ過信することで、本当に大事な「目の前の相手と誠心誠意向き合うこと」を忘れさせてしまうことにもつながる。世に流れる情報の波に騙されず、「本質」を見つめること。現代に本当に必要な「テクニック」とは、その「本質」を見極められる力なのだろう。
(田中 教)

最終更新:2016.02.13 11:08

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。

この記事に関する本・雑誌

つながる セックスが愛に変わるために

新着 芸能・エンタメ スキャンダル ビジネス 社会 カルチャー くらし

テクニックを学ぶと「セックス嫌い」になる? レジェンドAV監督・代々木忠が教える本当に気持ちいいセックスのページです。LITERA政治マスコミジャーナリズムオピニオン社会問題芸能(エンタメ)スキャンダルカルチャーなど社会で話題のニュースを本や雑誌から掘り起こすサイトです。田中 教の記事ならリテラへ。

人気記事ランキング

総合
ツイート数
1 安倍政権・厚労政務官が外国人在留申請で口利き「100人で200万円」
2 『モーニングショー』で「暑さに耐えるのが教育」元高校野球監督は右派論客
3 橋下徹に恫喝された女子高生が告白!
4 玉川徹がGSOMIA破棄で加熱するテレビの嫌韓煽動を批判
5 「拝謁記」昭和天皇は「反省」していたか 改憲再軍備、沖縄切り捨ても
6 くりぃむ上田晋也が“政権批判NG”に敢然と反論
7 『なつぞら』が宮崎駿・高畑勲も闘った「東映動画・労使紛争」を矮小化
8 「あおり運転」警察の過剰捜査とワイドショーの異常報道
9 GSOMIA破棄!八代・有本ら安倍応援団は「嫌なら来るな」
10 久米宏が「テレビが反韓国キャンペーンをやってる」と真っ向批判
11 葵つかさが「松潤とは終わった」と
12 嫌韓批判で炎上も…石田純一はブレない
13 自衛隊スパイ事件、官邸が解禁の理由
14 古市憲寿の芥川賞候補作「参考文献問題」に選考委員が猛批判
15 山本太郎が安倍の対韓国強硬姿勢を「小学生並み」と批判した理由
16 ウーマン村本がよしもと社長からの圧力を激白!
17 安倍イラン訪問でNHK岩田明子記者がまた安倍フェイクPR
18 吉川晃司が「俺は現政権がでえっ嫌い」
19 池上彰が朝日叩きとネトウヨを大批判
20 陸上・朝原宣治がスポーツの政治利用に危機感
1 安倍首相と省庁幹部の面談記録が一切作成されなくなった!
2 くりぃむ上田晋也が“政権批判NG”に敢然と反論
3 金融庁報告書で厚労省年金局課長の驚愕無責任発言
4 産経新聞コラムが「引きこもりは自衛隊に入隊させて鍛え直せ」
5 安倍首相が「老後2000万円」追及に逆ギレ!
6 菅官房長官が望月衣塑子記者への“質問妨害”を復活
7 金融庁「年金下がるから資産運用」報告書で麻生太郎が開き直り!
8 F35捜索打ち切りと大量購入続行でNHKが「背景に政治性」と報道
9 金融庁炎上の裏で安倍政権が「年金」の“不都合な事実”を隠蔽!
10 防衛省イージス・アショア失態 、玉川徹が原因を喝破!
11 長谷川豊が部落差別発言「謝罪文は馬場幹事長が作った」
12 講談社「ViVi」の自民党広告は公選法違反か!
13 映画『主戦場』上映中止要求の右派論客に監督が徹底反論!
14 渡辺謙が語った『ゴジラ』出演と震災、原発、戦争
15 マンガ『スシローと不愉快な仲間たち』第1話
16 田崎史郎「65歳から年金もらってます」
17 川崎殺傷事件「不良品」発言こそ松本人志の本質だ!
18 香港市民はデモの力示したが、日本は…
19 松本人志が「不良品」発言問題で謝罪も説明もなし!
20 農水元次官子ども殺害正当化は、橋下徹、竹田恒泰、坂上忍も

カテゴリ別ランキング


人気連載

アベを倒したい!

アベを倒したい!

室井佑月

ブラ弁は見た!

ブラ弁は見た!

ブラック企業被害対策弁護団

ニッポン抑圧と腐敗の現場

ニッポン抑圧と腐敗の現場

横田 一

メディア定点観測

メディア定点観測

編集部

ネット右翼の15年

ネット右翼の15年

野間易通

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

赤井 歪

政治からテレビを守れ!

政治からテレビを守れ!

水島宏明

「売れてる本」の取扱説明書

「売れてる本」の取扱説明書

武田砂鉄