『ヨルタモリ』でも見ることができなかった、タモリの知られざる“政治性”とは…NHKでは歴史修正主義批判も

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左『タモリと戦後ニッポン』(近藤正高/講談社)/右・フジテレビ『ヨルタモリ』公式サイトより


『ヨルタモリ』(フジテレビ系)が残念ながら、今日で最終回を迎える。考えてみれば、最近ではこの番組が本来のタモリの姿に一番近かったような気がする。

 『笑っていいとも!』(同)で国民的な人気を集め、自己主張のない淡々とした司会ぶりが話題になることの多いタモリだが、もともとは「ハナモゲラ語」と称するインチキ外国語や、文化人がいかにも言いそうなことを滔々と語ってみせる「思考模写」など、非常に攻撃的な芸風をもっていた。

 メジャーになった後も、当初は『今夜は最高!』(日本テレビ系)、現在も続く『タモリ倶楽部』(テレビ朝日系)などで、知的で洒脱なパロディスト、博覧強記のマニアックな探求者の顔を見せることも多かった。

『ヨルタモリ』はそういうタモリの“裏の顔”が垣間見れる数少ない番組だった。だが、タモリという芸人には、テレビで時々見られるその“裏の顔”のさらにもうひとつ裏があるようだ。

 一般的には、典型的なノンポリとされているタモリだが、実際はある種の批評性、もっといえば、政治性と言ってもいいようなものを内在させているような気がする。
 
 そうした視座を与えてくれるのが、「タモリを軸に戦後七〇年の「国民史」を描いてみたい」として、膨大な資料を参照しつつ、戦後という時代と響き合う新たなタモリ像を示す『タモリと戦後ニッポン』(近藤正高/講談社)だ。

 本書が描くタモリと戦後史の結びつきは、どこか政治的な緊張をはらんでいる。といっても、直接的に政治的な言動をするというわけではない。現実の政局や日本という共同体との絶妙な距離のとり方こそがタモリの政治性なのだといえよう。

 デビュー当時から、タモリは上の世代がつくりあげた既存の秩序や価値の重苦しさ(日本の村社会性、田舎者根性)に対して、強い反発を抱いているということをさまざまな場で語ってきた。彼が村社会以外のなにものでもない日本の政治風土やモーレツ社員がもてはやされた高度成長期の空気に順応しなかったのは想像に難くない。

 著者によれば、タモリがこうした感覚をもつにいたった大きな要因はその生い立ちにある。タモリの家族は満州からの引き揚げ組だった。幼い森田少年は、元満鉄の駅長で遊び人だった祖父から、当時としては世界的にみても先進的な都市だった満州での生活の話を聞いて育ったことで、日本を相対化する視点をもったのである。

 また、進学のため上京したタモリは、全共闘の全盛期だったのにもかかわらず、学生運動にもまったく興味をもたなかったそうだ。

〈全共闘世代っていうけど、なんら、影響受けてないもん。やってたヤツ、知り合いにいないし〉

 その代わりに熱中していたことといえば、所属していたジャズサークルの巡業講演での司会役。政治には見向きもせず、ひたすら芸を磨いていたのである。なお大卒初任給が約2万円の当時に演奏旅行で月数十万の収入を稼いでいたのだという。

 ちなみにこの頃、のちに三島由紀夫の介錯をしたことで有名になる楯の会メンバー・森田必勝も同じ早稲田大学に在籍していた。近藤も指摘するとおり、同じ「森田」姓をもつ正反対の二人が同じ時期、同じ場所にいたという偶然はとても興味深い。

 そしてタモリは大学卒業後、一度は故郷の福岡に戻り、ボーリング場の支配人などを経験するが、やがてジャズピアニストの山下洋輔と運命的な出会いを果たし、「九州の天才」として鳴り物入りで上京。赤塚不二夫ら、業界のトガった人々との交流を経て、30歳遅咲きの鮮烈デビューを飾るのである。

 だが、タモリが政治運動にかかわらなかったからといって、それがイコール政治的じゃないというわけではない。

 本書の分析によれば、タモリが長いキャリアで行ってきたことは「言葉の意味のレンジを広げる」ことだと要約できる。先に述べたようにタモリは既存の秩序・価値の重苦しさに反抗心をもってきた。

「ハナモゲラ語」や「中洲産業大学」といった有名なもちネタ、あるいは「空耳アワー」等といった企画はまさにその戦略のひとつだ。つまり、社会を成り立たせている「言葉」にまったく別の意味を与えることで「意味の連鎖」をズラし、重苦しさを軽やかに解体していくこと――これこそが芸人・森田一義の根底に流れる行動原理なのである。

 このように、一見ノンポリに見えるタモリの政治スタンスは根本的に攻撃的なものなのだが、やはり一般的には政治的に無害なお茶の間の人気者だとしか思われていないのも事実だ。

 実際、そんなタモリの影響力を「政治利用」する者が現れてきている、と著者はウェブサイト「cakes」に本書の刊行記念として寄せた文章で指摘をしている。

 たとえば『いいとも!』終了間際に安倍晋三総理大臣がテレフォンショッキングに出演したことは記憶に新しいはずだ。安倍総理の出演理由は「いろいろな人が見ている国民的番組で、政治番組だけで話すこと以外のことを話したい」というものだった。

 加えて『いいとも!』レギュラー陣のうち3人(田中康夫、東国原英夫、橋下徹)がのちに知事となったことも偶然ではないだろう。

 もちろんタモリとて自分を政治的に利用しようとする輩に対して甘い顔をするばかりではない。安部総理出演回でも、「翌日の新聞の〈首相動静〉に〈タモリと会食〉と載せたいから」と一緒にイチゴを食べさせるなど、相手を笑いのステージに引きずりこもうという抵抗をしていた。

 だが、いままでになく政治の力が強まり従来の戦法だけでは通用しなくなってきたのだろうか……。最近になって直接政治に関係する発言も見られるようになった。

 今年の正月にNHKで放送された『戦後70年 ニッポンの肖像 プロローグ』。このような番組に出演することがすでに何らかの意思表明とさえ思われるのだが、ここでタモリは番組冒頭から「〈終戦〉じゃなくて〈敗戦〉ですよね」「〈進駐軍〉ではなく〈占領軍〉でしょ」と疑問をぶつけ、さらに1964年の東京オリンピックの話題では閉会式が一番印象的だったとして、こうコメントしたのである。

〈閉会式は各国が乱れてバラバラに入ってくるんです。あれは東京五輪が最初なんです。(中略)それを見てた爺さんが一言いったのをいまだに覚えていますけどね。「戦争なんかしちゃだめだね」って〉

 それでもやはりタモリはタモリだ。鮮やかに〈言葉〉の本質を突きつけることよって、敗戦を認められない歴史修正主義者たちを批判している。

 もしかすると、タモリと、この国の重苦しさとの戦いは、これからもっと激しさを増していくのかもしれない。
(松本 滋)

最終更新:2015.09.20 11:07

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