殺した相手に「白い靴下」を履かせる連続殺人犯の“歪んだ性”

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『殺人者はいかに誕生したか 「十大凶悪事件」を獄中対話で読み解く』(新潮社)

 栃木小1女児殺害事件の容疑者が逮捕されたと思ったら、今度は倉敷で小5の少女が監禁されるという事件……。小児性愛者の犯行が後を絶たない。こうした児童への性犯罪をどう未然に防ぐか、というのは、社会の大きな課題になりつつあるが、性犯罪でもうひとつ、件数が多いのがフェティッシュな性的嗜好が誘発する犯罪だ。

 この6月23日にも、熊本市内に住むアルバイトの男性(28)が女子高校生の制服を大量に盗んでいたとして、熊本東署に逮捕された。昨年10月に熊本市内の高校敷地内の部室に侵入し、女子の制服などを盗んだという。自宅からは300着以上もの女生徒の制服やブラウスが見つかっており、容疑者は「女子の制服が大好きだ」と語っている。家宅捜索の際、自宅の部屋の壁に数十着の制服が飾られていた。

 同じ6月には女性の下着を盗んだとして佐賀署が鳥栖市に住む工員(36)を窃盗容疑で逮捕している。自宅の押し入れなどからは120点もの大量の女性下着が発見された。また同月、千葉県船橋市に住む自称派遣社員の男(38)が、女性の家に侵入し下着などを盗んだとして窃盗、住居侵入容疑で船橋署に逮捕されている。この男の自宅からも、女性の下着や水着、制服など約170点が押収されており、容疑を認めた上で「仕事でむしゃくしゃしていた。自分の欲望を満たすためにやった」と語っている。

 こうしたフェティッシュ系の性犯罪は児童への性犯罪と比べて、窃盗などにととまることが多いため、軽視されがちだが、中には重大犯罪に結びつくケースもある。それが「大阪自殺サイト連続殺人事件」だろう。

 2005年8月に、堺市に住む会社員、前上博(36=事件当時)が逮捕される。同年2月に河内長野市の砂防ダム付近で女性(25=当時)の遺体が発見されており、この女性への殺人、死体遺棄容疑であった。女性とは自殺サイトで知り合い、練炭自殺を持ちかけて誘ったのだが、自殺するのではなく、実際には殺害した。

 前上の犯した罪はこれだけではない。逮捕後の供述で同じく自殺サイトで知り合った中学生男子、大学生の男性も殺害していたことが分かったのである。これら一連の事件で、注目すべきはその殺人態様であった。いずれも被害者の手足を縛り、薬品を嗅がせ、口を塞いで窒息死させているが、その際、必ず白い靴下を履かせるのだ。

 快楽殺人ともいえるこの前上の行為や、白い靴下へのこだわりが生まれた背景については『殺人者はいかに誕生したか 「十大凶悪事件」を獄中対話で読み解く』(長谷川博一/新潮社)に詳しい。この書籍は、臨床心理士の著者が凶悪事件を起こした者たちと面会や文通を通してそのきっかけを分析している。前上も著者に「ボクを徹底的に調べて下さい」と懇願している。大阪地裁で死刑が言い渡され控訴を取り下げようとしていた前上だが、このタイミングでやり取りが開始されたため、心理分析のために控訴取り下げを遅らせた。

 著者によれば「彼の思考、行動の特徴を整理していくと、広汎性発達障害の一種、アスペルガー障害をもつことが歴然として来ました」という。アスペルガー障害を検討する際にはふたつの柱の有無と程度に注目するというが「言外の意を汲み取り、相手の感情を推し量ったり、自分の感情を伝えたりすることが苦手」といった“対人関係の質的な障害”と「あることに関心を持ち、熱中すると、そのことへのこだわりを示す」といった“限定的な関心や行動”があるが、これが前上にもみられたとある。

 そんな前上が白い靴下に激しい執着を覚えるようになったルーツは父親にあった。前上の父親は関西地方の白バイ隊に所属し、表彰されるほど活躍するなど仕事人としては立派であったが、一方で、仕事帰りに酒を飲み深夜に帰宅、休日も昼間から酒を飲んでは寝るような日々を送っていた。前上は父親とのふれあいのない寂しさを“お父ちゃんは悪い人を捕まえるために一生懸命働いているんだ!”と言い聞かせていたという。

 幼稚園の年長のころ「郵便配達員のかぶる白いヘルメットを見ると激しく『興奮する』(本人の表現)ように」なった。毎日のようにバイクを心待ちにし、幼稚園が休みの日には郵便配達員のあとを1時間も追い続けた。この白いヘルメットへのこだわりを著者は“父親を思う抑圧された気持ちが代理を求め、彼にとっての父親を象徴する白いヘルメットに向かった”と分析し、またそのこだわりぶりについてはアスペルガー障害が関係していると指摘している。

 白いヘルメットへのこだわりは小学生になると家族が履く白い足袋に、そして中学一年生の頃に白いスクールソックスへと変化する。そしてなぜ窒息行為の際に白い靴下を履かせていたかについての、まさにこの事件の核心については、これまた父親から幼少期に受けた恐怖体験が関係しているというのだ。

 前上が小学校4年生の頃、朝から酒を飲み始めようとした父親が、突然立ち上がったかと思うと前上のほうへ向かってきて両手で突き倒し、仰向け状態のお腹の上にしゃがみ込んだ。このとき「お父ちゃん、苦しいよ〜」いう前上の声は父親には全く届いておらず、「このまま死ぬのではないか」と覚悟した。母親が諌めてその場はおさまったがこうした行為は前上が覚えているだけで計3回あったようだ。またこうした行為を受ける直前に前上は、江戸川乱歩の小説を読んで「麻酔をかがされて失神するというシーンを読み、さし絵を見て同じような気持ちになりました」と、白い靴下を見たときと同様の興奮を覚えている。これを著者は「『父親から受けた息を吸えなくなる恐怖体験』が、『少年探偵シリーズの中の口ふさぎの挿絵への興奮』へと連結してしまった可能性が考えられます」としている。その後小学生の高学年以降、100件以上におよぶ「口ふさぎ事件」を起こした。

 前上が犯行時、被害者に白い靴下を履かせる行為は、深くは白バイ隊だった父親に対しての誇りだけではない複雑な思いや、父親から受けた窒息行為と密接に結びついていたのである。冒頭に挙げたいくつかの大量窃盗事件を起こした男たちも、そのモノを収集すること自体になんらかの性的興奮を覚えているようだが、本人たちを分析すると、前上のように、フェティシズムになんらかの体験が関係していることもあるのではないだろうか。
(高橋ユキ)

最終更新:2016.08.05 06:47

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