アベノミクスが若者の経済格差を拡大? 非正規雇用を増長

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「Thinkstock」より

【ビジネスジャーナル初出】(2014年1月)

 2013年、アベノミクスによって日経平均株価や有効求人倍率などの経済指標は改善した。日本経済団体連合会(経団連)の調査によると、東証一部上場企業76社の冬のボーナスも前年比5.8%増と、バブル期以来の増加となった。

 さらに、政府は4月の消費税増税による景気回復の腰折れを防ぐため、5兆円規模の経済対策を実施する。そろそろ景気回復を実感できる時期に差しかかっている。

 しかし、残念ながら、アベノミクスの恩恵は若者(特に非正規労働者)には回ってこないかもしれない。そう悲観的にならざるを得なくなるのが『増補新版「格差」の戦後史』(橋本健二著/河出ブックス)だ。本書は、データを駆使して日本社会の階級構造を浮き彫りにしてきた早稲田大学人間科学学術院教授(社会学)が、若者の貧困、格差の始まりがバブル期だったということを明らかにする。

●若者の経済格差は、バブル期に始まった

 1980年代のバブル期は、70年代前半までの高度成長が終わり、労働需要が減少し失業者が増加。円高を背景に、東南アジアなどから安い製品が大量に流入し、競合する国内の中小企業の経営環境は厳しくなった。急激な円高の進行に対応するため、企業の生産拠点の海外移転、下請け企業に対する徹底した単価切り下げも行われ、中小企業労働者の賃金水準は抑制、大企業と中小企業の賃金格差は拡大するようになった。さらに、80年代に「雇うなら非正規雇用」というスタイルが始まり、非正規雇用が増大したのだ。

「一般労働者の求人倍率がわずかな回復にとどまったのに対して、パートの求人倍率は急上昇し、80年には前年比1.43倍(一般労働者0.75倍)、85年は同1.53倍(同0.64倍)、89年には同3.75倍に達する(同1.04倍)に達する。コスト削減が至上命題になっていたことから、企業は労働力を非正規雇用に頼ったのである。その結果、85年から90年の間に正規労働者が145万人の増加にとどまったのに対して、非正規雇用者は226万人増えて、役員を除く雇用者の20%を初めて突破した」(同書)

 当時、非正規雇用者は、女性を中心に増加。92年の段階で女性748.0万人、男性229.1万人、合計977.1万人だった(総務省統計局「就業構造基本調査」より)。97年には、それまで先送りされてきた不良債権問題が一気に噴出し、企業の大型倒産、経営破たんが相次ぎ、目の前の収益の改善を最優先とする企業側は大企業、中小企業を問わず、コスト削減で労働力の非正規化を進め、非正規雇用者は男性266.2万人、女性847.0万人、合計1113.2万人と1000万人を超えるまでに増加した。

 02年初めから07年10月までの69カ月の景気回復を記録した、「いざなぎ景気」を超える「いざなぎ越え景気」の期間中の02年でも、男性380.8万人、女性997.6万人、合計1378.4万人と非正規化の流れが加速する。男性非正規労働者も増加しており、それは世帯収入の格差拡大に直結する。

 貧困化も進み、05年の非正規雇用者の貧困率は10年前の95年調査と比べても22.4%から29.2%と増加(6.8ポイント増)。労働者階級(従業員規模1~29人)の8ポイント増(14.3%→22.3%)に次ぐ高い伸びを示しているほどだ。なお、貧困率にいう"貧困"とは「所得が国民の平均値に満たない。目安として約137万円以下」のことを指す。「いざなぎ越え景気」は当時から「実感なき景気回復」と揶揄されたが、国民の大多数の財布が冷え切ったままで大企業だけが潤う景気回復だったことがわかる。

 08年のリーマンショック、11年の東日本大震災を経た12年には、非正規雇用者は男性526.5万人、女性1186.9万人、合計1713.4万人となり、92年の1.7倍になった。

●景気が上向くほどに格差は拡大する

 この間、政府の労働法規の規制緩和の動きも非正規雇用化を後押しした。86年には労働者派遣法が施行され、それまで認められていなかった、ほかの事業者へ労働者を派遣する事業が認められた。当初、派遣対象は専門性の高い業務を中心に狭く限定されていたが、99年の改正で原則自由化。03年改正では製造業への派遣も解禁されて、派遣労働者は一気に増加した。すなわち、派遣労働者を安価で雇用できるようになったのだ。

「失われた20年」ともいわれる長引く不況の中で、国を挙げてグローバル経済下で企業としての生き残りが最優先されるようになる。高コストの終身雇用、年功序列の日本から、安価の非正規雇用に頼るビジネスモデルに変わったのだ。

 これは企業にとっては都合のいいビジネスモデルで、景気と雇用の関係でいえば、非正規雇用は景気が良くなれば雇用されるが、悪くなれば切られていくだけ。いくら景気が良くなっても、金は経営者、正社員にまでしか回らない構造になっているのだ。つまり、好景気の時期こそ、大企業の経営者、正社員だけが潤い、格差は進行するというわけだ。

 実際に、内閣府の「今週の指標 No.1084 最近の賞与の動向について」(13年12月2日)でも、13年夏のボーナスでは経団連の東証一部上場企業76社の調査では、前年比5.0%増とバブル期以来の増加を示したが、「毎月勤労統計の夏季賞与の事業規模別を見ると、500人以上の大規模事業所では、前年比2.6%増と大きく増加したものの、それより規模の小さい事業所ではマイナスか低い伸びにとどまった」ことを指摘しているほどだ。

 13年、アベノミクスでも労働の規制緩和の流れを加速させる動きがあった。医療、雇用、農業などの法律を「岩盤規制」として、その緩和の検討を政府の産業競争力会議や規制改革会議で議論。特区内の基準を満たした事業所について、解雇の要件・手続きを契約条項で明確化して解雇しやすくしたり、休日や深夜労働の規制を緩和する「解雇特区」も議論してきたが、批判が集まり、成長戦略の柱となる「国家戦略特区」の規制緩和概要からは「労働時間法制」と「解雇ルール緩和」が外された経緯がある。

 しかし、政府は12月20日、地域を限って大胆な規制緩和などを行う「国家戦略特区」について、具体的な特区の対象地域を決める「国家戦略特区諮問会議」の民間議員に、慶応大学の竹中平蔵教授ら5名を選出した。竹中氏といえば、2000年代の小泉政権下で構造改革を唱え、規制緩和を推進してきた人物だ。竹中氏は労働規制の緩和についても「岩盤規制を崩していく」と述べており、積極的だ。

 ますます、簡単に解雇できる環境が整い、企業にとっては理想的な規制緩和が進む。それはつまり、若者の格差、貧困が進みかねないということだ。
(文=編集部)

最終更新:2014.06.30 02:22

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