"イルカの絵"画家ラッセンはなぜヤンキーにウケるのか?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 印刷
lassen.jpg
クリスチャン・ラッセン公式サイトより

【メンズサイゾー初出】(2013年10月)

 9月末頃からネット上で話題となった、現代美術家・奈良美智のTwitter激怒騒動。事の経緯は、「ギャラリーセラー」のディレクター・武田美和子が鼎談で「奈良さん好きな人とラッセン好きな人は同じだと思う」と発言し、実況ツイートを見た奈良が「武田さんの発言は、なんだか心外だなぁと思います(中略)ほんとにそうだったら、発表を辞めます。本気で」「つうか、俺、ラッセン大嫌い」などと反論したのだ。

 ご存じだとは思うが、ここで名の挙がったラッセンとは、神秘的なイルカの絵で知られるアメリカの画家クリスチャン・ラッセンのこと。奈良氏は同じくTwitterで、ラッセンについて「ああいう平和頭の理想的自然志向は理解できない。自分はもっとリアルな現実という壁に向かって立っている」と批判したが、実は武田氏の発言は"作風や作家としての姿勢"を同じだと言ったわけではなく、"マーケティングのプロモーションが同じ"と意見したもの。とはいえ、ラッセンと販売契約を結ぶアールビバン社は強引な販売手法で知られており、奈良氏にとってはマーケティングが同じと言われるのも心外に違いない。

 もちろん、奈良のファンたちもこの騒動に対し、「奈良さんとラッセンを同列にするなんて、ひどい話だ」「奈良さんとは対極にいると思いますけど?」と擁護。ラッセンのすさまじい嫌われっぷりがあらわとなった。しかし、なぜここまでラッセンは嫌われるのか? 先日発売された『ラッセンとは何だったのか? 消費とアートを越えた「先」』(フィルムアート社)から、その理由を考えていこう。

 まず、ラッセンとはいかなる人物なのかを軽く紹介しよう。ラッセンは1956年生まれで、現在57歳。最初に脚光を浴びたのは弱冠17歳、しかしその時は美術家としてではなく、サーファーとして、雑誌のカバーを飾ったり、テレビに出演するなどメディアに登場したのだという。20代になって絵画の世界で、「イリュージョナル・リアリズム」と呼ばれる作風を確立し、89年に日本でのエージェントであるアールビバンと契約を結び、一気に人気を博すように。バブル期には、あのイルカの絵がリビングやベッドルームに飾られていることが、若者の間で一種のステイタスシンボルとなった。さらにその後、アールビバンは全国で原画展を開催し、その人気は都市部から地方にも飛び火。「都市文化よりも地方や郊外の文化との親和性」を高めたという。

 ちなみに、05年にはパチンコメーカーとコラボレーションしたり、06年の来日時には「AV女優とホテル密会」をフライデーされたことも。さらに、ラッセン自身が愛するものとして挙げているのが「海、サーフィン、高級車、有名ブランド(ヴィトン含む)、美食、マウイの豪邸」と、画家イメージから遠く離れた、世俗まみれの成り上がりぶりが全開。これに対し、精神科医の斎藤環氏は「(ラッセンの)成金趣味は、日本においては『成功したヤンキー』のそれとほぼ重なる」と指摘し、元・美術家の大野左紀子氏も、ラッセンが日本で人気を得た理由を「日本人のヤンキー心に訴えたからではないか」と分析している。

 ここでいう"ヤンキー"とは、単なる不良ではなく「どんなに頑張っても、いまいち垢抜けず、安っぽい趣味に染まりやすい田舎者」のこと。斎藤氏いわく、ラッセンのようにヤンキーにウケるアーティストに共通するのは「伝統や具体的影響の否認であり、みずからの経験と感性のみに基づいて描く、という態度」。これがヤンキー特有の「反知性主義」につながるというのだ。また、矢沢永吉やBOOWYなどのヤンキー音楽同様、ラッセンの絵が持つ「機能性」(アロマキャンドル的なリラクゼーション効果)と、「自己投影の希薄さ」(BGMのようにムードを醸成する効果だけを追求)も、ヤンキーウケする要因だという。当然、ここには現代美術界が最重要視する"文脈"もへったくれもない。その販売手法やインテリア・アートだからという点だけでなく、文脈で語れないという点も、ラッセンが忌み嫌われてきた大きな理由なのだろう。一方、奈良ファンをはじめとする"反ラッセン"の人々にしてみれば、「ヤンキーが好むものなんてダサい」という気持ちも強いはずだ。

 しかし、単純にファンのあり方だけを見ると、「癒やされる」といって支持されるラッセンと、「かわいいから好き」というファンが多い奈良美智の違いとは、一体なんなのか? それは単に、ヤンキーであるか、雑貨や文学好きをアピールしたがるサブカル男子&女子かの違いだ。そこにあるのは、ただの"趣味の問題"である。奈良自身が高級車だのマウイの豪邸だのを好む画家と一緒にされたくない心情は十分理解できるが、一般的に見てファンのミーハー感は、はっきり言って似たり寄ったりだ。

 文脈でしか評価しない美術界の狭量さも問題だが、ラッセン好きを「ダサい」「アートを理解していない」と後ろ指をさすことも、またなんとダサいことか。たとえどんなに嫌われようが「好きなものは好き」と言い切る、ヤンキーのたくましさを見習いたいものだ。
(文=編集部)

最終更新:2018.09.27 01:03

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。

この記事に関する本・雑誌

ラッセンとは何だったのか? ─消費とアートを越えた「先」

新着 芸能・エンタメ スキャンダル ビジネス 社会 カルチャー くらし

"イルカの絵"画家ラッセンはなぜヤンキーにウケるのか?のページです。LITERA政治マスコミジャーナリズムオピニオン社会問題芸能(エンタメ)スキャンダルカルチャーなど社会で話題のニュースを本や雑誌から掘り起こすサイトです。マーケティングヤンキーの記事ならリテラへ。

人気記事ランキング

総合
ツイート数
1 自民党コロナ対策本部がヤバイ、青山繁晴らネトウヨがズラリ、陰謀論も
2 安倍首相が辻元清美に“前夜祭の決定的な嘘”を暴かれ窮地に!
3 槇原敬之は明らかに不当逮捕だ!薬物より怖い警視庁組対5課
4 安倍政権の酷すぎる新型コロナ対応!「金がかかる」と検査キットを導入せず
5 安倍政権のコロナ対応の遅さに非難殺到! 14 日まで感染症専門家会議設置せず
6 安倍政権はコロナも“自己責任 韓国は生活費支援も日本は休業補償認めず
7 『報ステ』政権忖度で首を切られたスタッフたちに支援の動き!
8 伊集院光がNHK『100分de名著』で「東京五輪、本当にいるのか」
9 安倍首相の強気の裏にニューオータニ幹部との関係
10 安倍「感染症対策のため獣医学部」は嘘! 加計は新型コロナ対応不能
11 葵つかさが「松潤とは終わった」と
12 安倍政権御用ジャーナリスト大賞(前編)
13 国内感染広がるも百田尚樹ら極右はまだ「中国人を入れるな」
14 小学8年生の安倍伝記漫画が反日と炎上
15 「全国高校生未来会議」仕掛人に新疑惑
16 「桜を見る会」前夜祭問題でニューオータニ総支配人が
17 新型コロナで高須院長やネトウヨが北朝鮮の「全員隔離」を絶賛
18 安倍政権御用ジャーナリスト大賞(後編)
19 『報ステ』から政権批判が消える! 派遣切り、安倍シンパ出演
20 グッディ!土田マジギレ真の原因
1 久米宏が「テレビが反韓国キャンペーンをやってる」と真っ向批判
2 安倍政権・厚労政務官が外国人在留申請で口利き「100人で200万円」
3 玉川徹がGSOMIA破棄で加熱するテレビの嫌韓煽動を批判
4 明石家さんまが吉本上層部と安倍首相の癒着に痛烈皮肉!
5 『ゴゴスマ』で今度は東国原英夫がヘイト丸出し、金慶珠を攻撃!
6 『報ステ』の“安倍忖度”チーフPがアナやスタッフへの“セクハラ”で更迭
7 『ゴゴスマ』で「日本男子も韓国女性が来たら暴行しなけりゃいかん」
8 文在寅側近の不正に大はしゃぎの一方、安倍政権が厚労政務官の口利きに無視
9 埼玉知事選で警察が柴山文科相への抗議を排除!柴山も表現の自由否定
10 安倍首相がトランプからトウモロコシ爆買い
11 菅官房長官「トウモロコシ大量購入は害虫被害対策」は嘘
12 GSOMIA破棄は安倍のせい 慰安婦合意から始まった韓国ヘイト政策
13 安倍が後に先送り財政検証の酷い中身
14 GSOMIA破棄で日本マスコミの「困るのは韓国だけ」の嘘
15 松本人志や吉本上層部批判の友近、近藤春菜にバッシング、報復か
16 『週刊ポスト』の下劣ヘイト記事は「小学館幹部の方針」の内部情報
17 GSOMIA破棄!八代・有本ら安倍応援団は「嫌なら来るな」
18 『モーニングショー』で「暑さに耐えるのが教育」元高校野球監督は右派論客
19 古市憲寿の芥川賞候補作「参考文献問題」に選考委員が猛批判
20 『関東大震災「朝鮮人虐殺」はなかった!』のデマとトリックを暴く

カテゴリ別ランキング


人気連載

アベを倒したい!

アベを倒したい!

室井佑月

ブラ弁は見た!

ブラ弁は見た!

ブラック企業被害対策弁護団

ニッポン抑圧と腐敗の現場

ニッポン抑圧と腐敗の現場

横田 一

メディア定点観測

メディア定点観測

編集部

ネット右翼の15年

ネット右翼の15年

野間易通

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

赤井 歪

政治からテレビを守れ!

政治からテレビを守れ!

水島宏明

「売れてる本」の取扱説明書

「売れてる本」の取扱説明書

武田砂鉄