サッカー国際大会での処分問題を機に旭日旗の歴史を再検証

ネトウヨや菅官房長官の「旭日旗」擁護はデタラメ! 侵略戦争で「天皇の分身の旗」と崇めた負の歴史を直視せよ

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海上自衛隊〔JMSDF〕オフィシャルサイトより


 サッカーJ1・川崎フロンターレのサポーターが、韓国のクラブ・水原三星ブルーウィングスとの試合で旭日旗を掲げ、処分が下された問題。報道によれば、4月25日に韓国で行われたアジア・チャンピオンズリーグの一戦で、川崎サポーターが旭日旗を掲揚したところ、水原のスタッフが没収。両サポーターが掴み合いになるなどの騒ぎが起きたという。アジアサッカー連盟は、旭日旗を掲げる行為は人種や政治的な心情による差別を禁じる規定に違反するとして、川崎に1年間の執行猶予付き無観客試合の処分を科した。

 当然だろう。そもそも、旭日旗は日の丸から伸びる放射状の光線を意匠とするが、これは戦中の旧日本軍が使用した「軍旗」(詳しくは後述)であり、日本の軍国主義や帝国主義の象徴、というより“軍国主義そのもの”である。FIFAの規約では、あらゆる政治的ないしは宗教的なアクションならびメッセージ等を禁じており、旭日旗の掲揚がこれに抵触するのは当たり前の話だ。

 ところが、この旭日旗問題に一斉に飛びついたのが、日本のネット右翼たちだ。ツイッター上などでこんな意見をがなりたてている。

〈日章旗も旭日旗も私達日本人にとって大切な国旗です。旭日旗を軍国主義の象徴だとか右翼だとか間違った認識で貶めないで下さい〉
〈旭日旗は日本の国旗です。国旗を掲げて何が悪い。政治を持ち出すのはいつもK国やT国〉
〈旭日旗の事は日本人を守って下される海上自衛隊の隊旗です。それを外国の人間に文句を言われる筋合いはない〉
〈旭日旗かっこいいよね…?何で関係ない韓国ちゃんぴいぴいしゃしゃり出てくんの???〉

 あまりに頭が悪すぎて驚愕である(だいたい、旭日旗が日本国旗だった時期など歴史上存在しない)。だが、これが単にネトウヨの妄言にとどまらないのだから、本当にヤバいとしか言いようがない。

 実際、川崎と日本サッカー協会は「旭日旗に政治的な意図はない」として頬被り、さらには日本政府も菅義偉官房長官が「旭日旗は差別的ではないとの認識か」との質問に対して、「自衛隊旗や自衛艦旗だけではなくて、大漁旗や出産、節句の祝い旗など、日本国内で現在も広く使用されていると考えている」などと会見で述べるなど、事実上、旭日旗の使用は不適切ではないとの認識を示している有様なのだ。

 まったくため息しか出ないが、だとしたら、一度きちんと歴史を振り返っておく必要があるだろう。旭日旗をめぐる問題は、“日本国内と海外の単なる認識のギャップ”という一般論では説明不十分であり、ましてや“現在の自衛隊も使っている伝統的デザインであって、悪意はない”という正当化は妥当ではない。それは、つぶさに歴史を検討すれば明らかなのだ。

陸軍では旭日旗は「天皇の分身」だった

 まず「旭日旗」の定義とは何か。『広辞苑』によれば、「旭日」とは「朝日」のことで、「旭日旗」は「朝日を描いた旗。もとの日本の軍旗・軍艦旗などの類」とある。戦前・戦中でいう「軍旗」(「連隊旗」とも呼ばれた)は大日本帝国の陸軍、「軍艦旗」は海軍での呼称だ。それぞれ姿形が微妙に異なり、使用態様も違った。

 陸軍の軍旗は、中央に日章(日の丸)を位置し、そこから放射状に16条の光線が先端になるにつれ太く伸びる意匠。法令で制定されたのは1874(明治7)年だ。一次資料に近いところをみると、その授与に際しては、天皇の名で「軍旗一旋ヲ授ク 汝軍人等協力同心シテ益々威武ヲ宣揚シ以テ國家ヲ保護セヨ」という勅語があり、「親授」(手渡し)で行われた。連隊長はこれを拝受し、謹んで「敬テ明勅ヲ奉ス 臣等 死力ヲ竭(尽)シ誓テ國家ヲ保護セン」と奉答している(都立中央図書館所蔵「皇軍連隊旗写真帖」昭和7年)。

 こうして、軍旗は単なる連隊の標識にとどまらず、連隊の魂として意識されるようになり、軍旗に関する礼式、取り扱い等も規定された(秦郁彦『日本陸海軍総合事典』東京大学出版会)。まさに「天皇の分身の旗」であったから、これを紛失したり、奪取されることなどもってのほかだったのである。勝利のときは部隊の戦闘に立ち、敗北・玉砕の際は連隊長が腹を切って、軍旗を奉焼の儀式にて灰にしたという(寺田近雄『完本 日本軍隊用語集』学習研究社)。

 戦中、陸軍近衛歩兵第6連隊で旗手をつとめた作家の故・村上兵衛はこう書いている。

〈軍旗を失った歩兵連隊などというものは、もはや哂い者にすら価しなかった。それは存在しないのである。また存在させてもならないのである。だから、わが陸軍においては「軍旗喪失」と「連隊全滅」とは数学的正確さを持った同義語に過ぎなかった〉(小説「連隊旗手」)

 実際、前掲『日本陸海軍総合事典』によれば、第二次大戦末期には爆薬によって旗手が軍旗もろとも自爆する処置がとられたという。1945年の敗戦に際し、陸軍大臣は全軍に対し、8月末日までに軍旗を奉焼せよと命令。現存するのは、靖国神社に保管されている一本(歩兵第321連隊旗)のみである。

 いずれにせよ、旭日旗をたんに「かっこいいデザイン」とみなして無害化する考え方は、道化にもほどがある。日本の軍国主義が、神格化した天皇を頂点として侵略を正当化するイデオロギーであったことを考えれば、同様に陸軍で神格化された軍旗=旭日旗の存在は、まさに、国内的対外的に関わらず、象徴という抽象的なレベルを超えた“軍国主義そのもの”としか言いようがないのだ。

海自の自衛艦旗は海軍の軍艦旗の亡霊

 一方、海軍の「軍艦旗」がどう扱われたかも見ておきたい。日本では、幕府時代から日章旗が軍艦旗としても使われたが、1889(明治22)年の海軍旗章条例によって16光線条の旭日旗が正式な軍艦旗として定められた。陸軍の軍旗と比べて全体的に横長であり、日の丸の位置はやや左(竿側)にずれる。後述するが、これは現在、海上自衛隊の自衛艦旗にそのまま継承されている(なお、陸自は8光線条である)。

『日本陸海軍総合事典』によれば、軍艦旗は海軍の艦船たることを示す旗章で、日本国主権の存在を表示したという。内地においては、午前8時から日没までの多くの場合、艦尾の旗竿に掲げ、航海中は昼夜通じて掲げられた。

 1902(明治35)年に海軍少佐・奥田貞吉の名前で著された「帝國國旗及軍艦旗」には、〈軍艦旗ハ海軍ニ於ケル主權ノ表章ニシテ戦時平時ヲ問ハス軍艦及海軍所用の船艇ニ掲揚セラルヽモノトス〉とあり、その意匠には〈我帝國ノ武勇ヲ世界ニ輝カセ〉とか〈帝國ノ國權ヲ地球ノ上ニ發揚セヨ〉という意味があるとしている。つまり、たんに所属を表す目的ばかりでなく、国威発揚および帝国主義の正当化を図る示威行為の意図があったと考えられる。

 前述の通り、海軍の軍艦旗もまた陸軍同様、敗戦を機に一度は消滅する。それがなぜ、自衛隊旗として復活したのか。結論から言うと、ネトウヨや菅官房長官(これを並列すること自体情けない)は「旭日旗は自衛艦旗にも使われている」ことを理由に“問題なし”とするが、それは戯言でしかない。

 実際、防衛省・自衛隊ホームページでも、〈自衛艦旗は戦前の日本海軍の軍艦旗そのままのデザインですが、その制定にあたって海上自衛隊の艦旗はすんなりと旧軍艦旗と決まったわけではありませんでした〉と解説されている。1954(昭和29)年の自衛隊設置を前に、その前年から旗章が全面的に見直されることになったのだが、〈多くの部隊が希望している旧軍艦旗を採用することについても、情勢はこれを許す状況にはないのではないかとの議論〉があったというから、やはり、この旭日旗が軍国主義を示すものであるとの認識は当時の関係者にもあったわけである。

 ところが、〈各部隊・機関の意見を集めたその結果、各部隊等の大部分は旧軍艦旗を希望している意見が多いことが判明〉して、結局、旧日本軍の軍艦旗がそのまま制定されたという。実際、別の証言を探したところ、元海軍軍人の大賀良平・第12代海上幕僚長(故人)が、「海自50周年」の記念特集をくんだ「世界週報」(時事通信社)2002年8月20・27日合併号に、「旭日旗、再び」なる文を寄稿しているのが見つかった。

 それによれば、1951年、吉田茂はサンフランシスコ講和条約締結と前後し、米国から艦艇の貸与を打診され、これを受け入れた。その際、貸与艦をどう運用すべきかを検討する秘密委員会が設けられた。山本善雄元海軍少佐が主席となり、旧海軍側から8名が参加したという。この答申によって、翌52年に海上警備隊が創設されたのだが、大賀元海幕長は当時をこう述懐している。〈この時、関係者が感激し狂喜したのは、かつての軍艦旗“旭日旗”が再び自衛艦旗として使えるように決まったことだ〉と。

 大賀元海幕長の言う「感激し狂喜した関係者」とは、帝国海軍出身者をさすのだろう。自衛艦旗の「旭日旗」の復活は、大日本帝国海軍の強烈な“自尊心の残滓”が、そのメンタリティを継承しようとした結果だということは明らかだ。菅やネトウヨ連中が言うように、たんに伝統的な「旭日」のデザインだけを拝借したわけでは決してないのである。

日本が“旗に命を捧げるカルト国家”だった負の歴史

 こうして歴史を振り返ってみれば、旭日旗が意味するのはミリタリズムそのものであり、その掲揚を韓国や中国が批判するのは、ごく自然としか言いようがない。

 あるいは昨今、右派やネトウヨの間では、旭日旗をナチスのハーケンクロイツと同質として忌避することに対して「旭日旗は軍旗だから鉤十字とは由緒が異なっていて、ドイツ軍が現在でも使っている鉄十字章と同じだから問題ない」というような理屈をこねる向きがあるが、先に見てきた通り、戦中軍部での旭日旗の扱い方と、それを「感激狂喜」しながら復活させた海自の成り立ちを考えれば、もはや反論にすらなっていないだろう(というか、鉄十字もサッカースタジアムに持ち込めば処罰の対象となる)。

 また付言すれば、「朝日新聞の社旗だって旭日旗じゃないか!」などと見当違いなバッシングを展開しているネトウヨ連中もいるが、だからなんなの?としか言いようがない。『朝日新聞社史 資料編』(朝日新聞社)によれば、朝日の社章(社旗)は、もともと発行許可が下りた明治12年につくられ、以後、何度も図柄が変わって現在の「旭日」を四分割した意匠(ちなみに7光線条)になったという。無論、「これは旭日旗によく似ているが旭日旗ではない」というようなイタチゴッコに与するつもりはないが、さすがにネトウヨの悪ノリは馬鹿げている。繰り返すが、問題は「旭日」=朝の太陽の“デザイン性”にあるのではなく、「旭日旗」=帝国軍旗・戦艦旗という“史実”にあるのである。

 なお、旭日旗と戦中のミリタリズムを意図的に(?)断絶させたうえで「別の日本の伝統的なモチーフを使用しているだけ」「“健全な愛国心”を示しているにすぎない」と主張する人がいると仄聞するが、それも認識が浅薄すぎると言わざるをえない。戦中の陸軍が軍旗を神格化し、これを守るために作戦まで変更して、ましてや軍旗と“心中”までしていたという事実を知っていれば、「健全な愛国心」などとは口が裂けても言えまい。旗を天皇の分身と見なして人命より重く扱う価値観は、どう考えてもカルトである。

 逆に言えば、戦中日本はそのような“カルト国家”だったのだ。あらためていうが、旭日旗は決して軍部だけの独占的なデザインだったわけではなく、軍国主義の進展とともに、ポスターのなかに盛んに登場するようになったり、学校の校旗にまで登場した。あるいは、子どもたちまでもが手旗サイズの軍旗を振っている様子も、記録写真などでいくらでも確認できる。つまり、庶民にも戦意高揚のために使われていたのである。

 結局のところ、サッカーの試合などで繰り返される旭日旗の問題は、日本が侵略国家であったという歴史を軽視しているばかりか、日本の国民がその御旗のもとで戦争へ動員させられたという事実を忘却しているのだ。外国からどう見られるかという国際的な視点ももちろん大事だが、その前に一度立ち止まり、自分たちの祖先が旭日旗の下で何を強要されてきたかについて、真摯に向き合うべきだろう。でなければ、外的な抑圧感情が反動に結びつき、同じことが反復されてしまうだけだ。

 ネトウヨや安倍政権は論外だとしても、心あるサッカーファンたちが「健全な愛国心」を標榜するのならば、いまこそ、冷静な視座に立つことを求めたい。

最終更新:2019.06.07 09:55

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