合唱コンクール課題曲を生んだセカオワSaoriのいじめ体験…ランドセルに死ねの文字、そしてFukaseの救い

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SEKAI NO OWARI「Dragon Night」(トイズファクトリー)

 本日、第82回NHK全国学校音楽コンクール、いわゆるNHK合唱コンクールの中学校の部が行われた。中学校の部の今年の課題曲「プレゼント」は、セカオワことSEKAI NO OWARIが手がけたもの。Saoriが作詞、NAKAJINが作曲を担当した。

 セカオワといえば十代からの支持が高いことで知られるが、実際コンクール会場で、参加した中学生たちもこの「プレゼント」への思い入れを口々に熱く語っていた。
 
 SEKAI NO OWARIも、この曲に込めた思いをこんなふうに語っている。

「中学生くらいのときは僕らも『この悩みはいつ解決するんだろう』と苦しんだこともありました。そのときのことは大人になっても忘れないし、すごく糧になっています。まだ今はつらい気持ちを抱えている人もいるかもしれないけど、この『プレゼント』という曲がみなさんにとって一生の宝物みたいな曲になればいいなと思います」

 なかでも作詞を担当したSaoriは、コンクール中継のなかで、かつて自分が中学生だったころ生きづらかった経験や、自分たちも同じ中学校の仲間だったことを語り、「中学生の自分にあげたい曲」を作ったと明かした。

 十代のSaoriが抱えていた生きづらさ。本サイトでも以前お伝えしたが、実はSaoriは、かつていじめられっ子だったことを告白している。

 たとえば、課題曲のサビにある「ひとりぼっちになりたくない」と本当は言いたいけれど言えない気持ちや、「ひとりぼっちになって気づいたこと」。そうした歌詞の背景には、インタビューで告白した「友だちなんて永遠にいらないと思っていた」という十代のSaoriの心情や、Fukaseとの出会いで変わっていた経験があると思われる。

 Saoriが経験した壮絶ないじめ、そして彼女を救ったFukaseの言葉とは? 以下に再録するのでご一読いただきたい。
(編集部)

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 昨年末の『NHK紅白歌合戦』に出演し、今年1月に発売したニューアルバム『Tree』がオリコン1位を獲得するなど、人気拡大中のバンド・SEKAI NO OWARI(以下、セカオワ)。キャッチ—なメロディと独自の世界観を表現したライブ演出、そして聴く人の内面に入り込む歌詞が若い世代を中心に支持されている。

 特にその動向が注目されるのが、ボーカルのFukase。きゃりーぱみゅぱみゅとの交際や精神科病院の閉鎖病棟に入院した過去をオープンにしたり、生と死をテーマにした詩を手掛けたり、彼の作詞ノートに「魍魎(もうりょう)、虚時間」と厭世観が感じられる漢字がビッシリと書かれていたりと、「中二病」の要素が話題になることも多い。

 しかし、Fukase以上に繊細な性格なのが、ピアノを担当するSaoriだ。彼らのインタビュー集『SEKAI NO OWARI 世界の終わり』(ロッキング・オン)に収められている単独インタビューからは、自分を持て余しているSaoriの孤独や戸惑いが伝わってくる。

 Saoriがいじめられっ子で、中学に入ってからはヤンキーになったというのはファンの間でもよく知られている話。ランドセルに「死ね」と書かれたり、友人になろうとプレゼントを送ったのに突き返されたり、靴に画びょうをいれられたり、トラウマになるような被害に遭っているのだが、本人が「気が強かった」というように、弱いところを見せずに学校へ通い続けた。その内面では、「とにかく誰かが悪いと思っちゃう。自分にこんな悪い点があるから、そこを改善してみようっていう冷静な自分なんか微塵もいない」状況だったという。いじめられている現実を前にしたら、誰もが自分以外に理由を見出そうとしてしまうのではないだろうか。しかし、彼女はいまなお自分自身の性格や被害妄想に悩まされ、それがいじめの原因だったのではないかと苦悩しているのだ。

「(今は)リア充じゃんってみんなは思うかもしれないけど。かなり自分を冷静に見ていて、それが被害妄想だってわかってるにもかかわらず、暴走してわけわからなくなるみたいのが、もう4歳ぐらいからずっとあって。そことの距離感をずっと探してる感じ。でも小さい時はそれがわからないから、とにかくワガママ。だから友だちもできない。なんで泣いているのか、なんで怒っているのか周りもわからない。でも自分の爆発する感情を抑える術が全くわからないから」

 さらにヤンキーになったのも、「友だちが欲しかった」にもかかわらず、「正攻法でいってもダメだと思って」と語る姿に、彼女の不器用さが垣間見れる。

 高校に入ると、ピアノに携わる仕事に就くという目標のためにピアノに打ち込んだせいか、友人への執着が薄れ、「完全に人類への興味を失うんです」「友だちなんて永遠にいらないと思っていたし」「深く考え始めると優越感に浸るみたいなところもあったかもしれないけど、人とわざわざ合わせる必要がないってことがわかったから」と、中二病ともいえる思春期特有の孤独への憧れや自己愛が肥大化していく様子がうかがえる。

 そんなSaoriを支えたのがFukaseの存在。彼女に対して「おまえ、それはいじめられるよ」「いじめられる側にも原因があると思う」と厳しい現実を突きつけたFukaseだが、高校時代は夜中に彼と死刑や悪の定義について電話で語り合い、2人だけの世界を築き上げていく。

 ファンの間では、2人は元恋人とウワサされているが、たしかにインタビューを読むとSaoriのFukaseへの信頼には驚かされる。「(Fukaseと)会った瞬間に、この人とはずっと一緒にいると思った。それが絶対に忘れられない」「今日から世界が変わるって本気で思った」と、彼について語る言葉はメンバー愛を超えた熱量をはらんでいる。

 自分だけがFukaseの理解者だと思っていたSaoriだが、NakajinやDJ LOVEといった他のメンバーに出会い、バンドの世界が拡大し、Fukaseの理解者や共感者が増えていく。しかし、このことが同時に彼女の居場所を奪っていくことにもなる。サウンド面で中心メンバーになっていくNakajinの存在を認めると、自分がバンドのコアじゃなくなるという恐怖心が生まれ、自分の価値がわからなくなることもあるという。コンサートの演出を手掛けるSaoriは評論家からも高い評価を得ているのだが、彼女自身は「NakajinとFukaseの壁がずーっとあって。自分が頑張れば頑張るほど、ふたりがどれだけすごいかを知る」と、2人の存在にコンプレックスを刺激され、自己肯定ができなくなっているのだ。

 さらに彼女を長年悩ませていたのが、「女性性」のねじれ現象。いじめられた経験からか、もともと男友だちとばかりつるみ、「『メイクとかして、かわいいと思われたいわけ? キモい』っていう、そういう感覚が当時はあった」と、自分を姉御肌キャラだと思っていた彼女。しかし、デビュー直後の女性ファンの評価は「とくかくウザい。気持ち悪い。メンヘラ」と手厳しいものだった。バンドでは紅一点の存在なのに、メンバーへの愛情を包み隠さずに語ることが、女性ファンからは異質に見えていたのかもしれない。デビューによって、自分の意思とは別にメイクをしたり、女性らしい衣装を着ることによって、女性性へのわだかまりが消えてバランスが取れるようになったという。

『紅白』にも出演し、アルバムの売り上げが好調で、傍からみればサクセスストーリーを歩んでいるように見えるが、インタビュー中は「飢えている」という言葉が何度も登場し、「ずっと満たされない。これでいいと思えないみたいなのはずっとある」と現状に満足していないSaori。きっと、いまなお中二病のど真ん中にいるのだろう。ただ同時に、それこそがセカオワの魅力につながり、彼女の表現の源にもなっている。彼女がいい意味で中二病を乗りこなせるか、それがセカオワの成功のカギを握るに違いない。
(江崎理生)

最終更新:2015.10.12 06:04

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