あの蛭子さんが「安倍首相の右翼的な動きが怖ろしい」と発言する理由

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『ひとりぼっちを笑うな』 (角川oneテーマ21)

 蛭子能収が絶好調だ。太川陽介と目的地までひたすらバスを乗り継ぐという変わり種の旅番組『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』(テレビ東京系)がきっかけとなり、本人曰く「過去に経験がないくらい」仕事のオファーが殺到しているらしい。

 飄々として、何を考えているのかよくわからない。空気を読まない発言を連発して周囲を慌てさせる。それでいてなぜか憎めない。そんな蛭子さんが“生き方本”を出したというので、いったいどんなことを書いているのか、気になって、その本『ひとりぼっちを笑うな』(蛭子能収/角川oneテーマ21)を手に取ってみた。すると、そこには想像以上にまっとうな蛭子さんの“哲学”が綴られていた。

 蛭子さんはまず、東日本大震災における“絆”について疑問を口にする。

「正直なところ、僕にはちょっとそれがよくわからなかったんですよね」

 もちろんあの震災は二度と起こって欲しくないし、被災者への思いを蛭子さんだって持っている。しかし“絆”や“がんばろう”という言葉を強調することに蛭子さんは違和感を覚えているのだ。

「あくまでも人は自由だから、絆の外にいる人、がんばらない人がいてもいいし、それを(略)説教や強要をするのは好ましくない」

 おっしゃる通り! しかし多くの人はそんな“本音”を言いたくても言えない。だってそんなことを言えば非国民だとか人間の心がないと非難されることは容易に想像できるからだ。

「いまの日本には、そういった無言の圧力みたいなものが存在しているように感じるんです。とはいえ、それもその人たち次第だと思うんですよね。だって、その人自身は不謹慎なことを言ってるつもりはないんじゃないですか?」

 だから蛭子さん本人も決して不謹慎なことを言っているつもりはない。その根底にあるのは「自由」だ。誰かに束縛されたり、自由を脅かされることが何よりも大嫌いだという蛭子さんは、だから“群れ”は危険だと思っている。本音を言えないのは、グループに所属しているからで、そこから「無言の圧力」を受けるからだ。

 ゆえに蛭子さんは「ひとりぼっち」を選ぶ。いや選ぶのではなくそれが蛭子さんにとっての自由であり、快適で自然なことだから。そしてこう思う。「『友だち』って必要なのかなあ」と。

「長いこと、自由であることを第一に考えていると、いわゆる“友だち”と呼ばれるような人は、あまり必要でなくなります。むしろ、友だちがたくさんいると、面倒くさいと感じることも多々あるくらい。友だちはいい存在でもある一方で、ときには、自由を妨げる存在になるからです」

 逆に自分が誰かを誘えば、その人の自由や時間を奪ってしまうことにもなると指摘する。

 蛭子さんは競艇にも映画にも基本はひとりで行くし、共演者とは外で会ったこともない。仕事の打ち上げやみんなと一緒に食事もするのも苦手。ついでに大皿料理も「他人が箸をつけたものを自分の口にいれるっていうことが、生理的にダメ」なので大嫌い。テレビでも思ったことは正直に話す。

「共演者や視聴者からの顰蹙を買うようなことがあっても、自分自身でいるためにはそれしか手段がなかった(それしかできなかった?)。(略)『もっと視聴者受けすることを言わなくっちゃ』とは、絶対に思いませんでした。だって、それではウソになってしまうから」

 そして自由であるためには自分だけでなく他人も尊重するし、他人に迷惑はかけないという。

「他人に迷惑をかけるようなことはしないっていうのが、僕にとって絶対的なものとしてある」
「僕自身が自由であるためには、他人の自由も尊重しないといけないという信念であり、それが鉄則なんです。人それぞれ好きなものは違うし、ライフスタイルだって違う。そこをまず尊重しない限り、いつか自分の自由も侵されてしまうような気がしてなりません」

 自由をこよなく愛し、自分を偽りたくないという蛭子さんは、だからこそ「自由を奪う」戦争は断固として反対だという。そして集団的自衛権について「手出せば倍返しされる」と朝日新聞(6月24日)でこんなことを言っている。

「正直、難しいことはよく分かりませんが、報復されるだけなんじゃないですか。 『集団』っていう響きも嫌いですね。集団では個人の自由がなくなり、リーダーの命令を聞かないとたたかれる。自分で正しい判断ができなくなるでしょ。(略)手を出すと倍返しされ、互いにエスカレートして、ナイフを持ち出すことになりかねません。歯止めがかからなくなり、最後には死を想像してしまう。漫画ならいいけど、現実に起きてはいけない」

 なるほど蛭子さんらしい率直な発言だ。そして本書でも戦争についてこんな考えを吐露するのだ。

「ここ最近の右翼的な動きは、とても怖い気がします。安倍首相は、おそらく中国と韓国を頭に入れた上で、それ(集団的自衛権)をとおそうとしているのでしょうけれど、僕はたとえどんな理由であれ、戦争は絶対にやってはいけないものだと強く思っています」
「戦争ほど個人の自由を奪うものなんて、他にはないんですよね。誰かの自由を強制的に奪うようなものは、いかなる理由があっても断固として反対です」

 なによりも自由が大切で、自由が好き。群れない個人を尊重し、あくまで“個人”として戦争に反対する。そんな蛭子さんの「ひとりぼっち」は素敵だ。だが、それ以上にすごいのは、自身の性格を「内向的」と分析し、恥ずかしがり屋で決して目立ちたくはないと言う一方、「誰かに『嫌われている』と思ったことがない」という点だ。

 その理由は「僕は誰かに嫌われるようなことをなにひとつしていない」から。だから自信を持って「戦争は反対」「友だちはいらない」「絆は強要されるものではない」と本音を言える。いや、本音しか言えないのだろう。

 本音を言えず、KYと指摘されるのを恐れ、同調圧力に苦しむ多くの人々、特に若い世代には是非読んで欲しい蛭子さんの人生哲学だった。
(伊勢崎馨)

最終更新:2015.01.19 05:13

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