"イルカの絵"画家ラッセンはなぜヤンキーにウケるのか?

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 まず、ラッセンとはいかなる人物なのかを軽く紹介しよう。ラッセンは1956年生まれで、現在57歳。最初に脚光を浴びたのは弱冠17歳、しかしその時は美術家としてではなく、サーファーとして、雑誌のカバーを飾ったり、テレビに出演するなどメディアに登場したのだという。20代になって絵画の世界で、「イリュージョナル・リアリズム」と呼ばれる作風を確立し、89年に日本でのエージェントであるアールビバンと契約を結び、一気に人気を博すように。バブル期には、あのイルカの絵がリビングやベッドルームに飾られていることが、若者の間で一種のステイタスシンボルとなった。さらにその後、アールビバンは全国で原画展を開催し、その人気は都市部から地方にも飛び火。「都市文化よりも地方や郊外の文化との親和性」を高めたという。

 ちなみに、05年にはパチンコメーカーとコラボレーションしたり、06年の来日時には「AV女優とホテル密会」をフライデーされたことも。さらに、ラッセン自身が愛するものとして挙げているのが「海、サーフィン、高級車、有名ブランド(ヴィトン含む)、美食、マウイの豪邸」と、画家イメージから遠く離れた、世俗まみれの成り上がりぶりが全開。これに対し、精神科医の斎藤環氏は「(ラッセンの)成金趣味は、日本においては『成功したヤンキー』のそれとほぼ重なる」と指摘し、元・美術家の大野左紀子氏も、ラッセンが日本で人気を得た理由を「日本人のヤンキー心に訴えたからではないか」と分析している。

 ここでいう"ヤンキー"とは、単なる不良ではなく「どんなに頑張っても、いまいち垢抜けず、安っぽい趣味に染まりやすい田舎者」のこと。斎藤氏いわく、ラッセンのようにヤンキーにウケるアーティストに共通するのは「伝統や具体的影響の否認であり、みずからの経験と感性のみに基づいて描く、という態度」。これがヤンキー特有の「反知性主義」につながるというのだ。また、矢沢永吉やBOOWYなどのヤンキー音楽同様、ラッセンの絵が持つ「機能性」(アロマキャンドル的なリラクゼーション効果)と、「自己投影の希薄さ」(BGMのようにムードを醸成する効果だけを追求)も、ヤンキーウケする要因だという。当然、ここには現代美術界が最重要視する"文脈"もへったくれもない。その販売手法やインテリア・アートだからという点だけでなく、文脈で語れないという点も、ラッセンが忌み嫌われてきた大きな理由なのだろう。一方、奈良ファンをはじめとする"反ラッセン"の人々にしてみれば、「ヤンキーが好むものなんてダサい」という気持ちも強いはずだ。

 しかし、単純にファンのあり方だけを見ると、「癒やされる」といって支持されるラッセンと、「かわいいから好き」というファンが多い奈良美智の違いとは、一体なんなのか? それは単に、ヤンキーであるか、雑貨や文学好きをアピールしたがるサブカル男子&女子かの違いだ。そこにあるのは、ただの"趣味の問題"である。奈良自身が高級車だのマウイの豪邸だのを好む画家と一緒にされたくない心情は十分理解できるが、一般的に見てファンのミーハー感は、はっきり言って似たり寄ったりだ。

 文脈でしか評価しない美術界の狭量さも問題だが、ラッセン好きを「ダサい」「アートを理解していない」と後ろ指をさすことも、またなんとダサいことか。たとえどんなに嫌われようが「好きなものは好き」と言い切る、ヤンキーのたくましさを見習いたいものだ。
(文=編集部)

最終更新:2018.09.27 01:03

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