羽生結弦パレード「日の丸配布」の裏側! 背景に右派の猛圧力、4年前からネトウヨ議員和田政宗や在特会・桜井誠も…

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羽生選手の最新インタビュー集『夢を生きる』(中央公論新社)

 五輪2連覇を果たしたフィギュアスケート男子金メダリスト・羽生結弦選手の祝賀パレードが、22日、出身地の仙台市で行われる。羽生選手の人気ぶりについてはいまさら言うまでもなく、宮城県警は過去最大の2000人態勢で警備にのぞむというが、一方で気がかりなのは、この“羽生フィーバー”を右派が盛んに政治利用していることだ。

 そもそも、金メダルを獲得した夜に安倍首相が祝福の電話をかける模様をマスコミに報じさせたり、国民栄誉賞を授与するなど政権による露骨な政治利用が相次いでいるが、羽生選手をめぐっては、兼ねてから右派界隈も便乗して“ナショナリズムのアイコン”に仕立て上げようと躍起になっている。

 事実、22日のパレードでは、実行委員会が「日の丸」の手旗約2万本を参加者に配布することになっているが、その背景には右派のきな臭い動きがあった。実は、4年前のソチ五輪の際の羽生選手凱旋パレードでは、主催者側は「日の丸手旗」を配らなかったのだが、これに対して“激しい抗議”が殺到していたのである。

 実行委員会に連なる仙台市のスポーツ振興課によれば、「4年前のパレードでは時間と費用的問題で小旗の配布を見送った」が、「その際、『どうして配らなかったのか』『次回はぜひ配ってほしい』というご要望が市の方に多く寄せられました」(同課担当者)という。また、同じく羽生選手が平昌五輪で金メダルを獲得したこの間も、「いろいろな方」から市に「どうして日の丸を配らないのか」とのクレームの電話等が多数寄せられていた。

 断っておくが、羽生選手に限らず、スポーツ関連のパレードで自治体が大量の日章旗を参加者に配布するケースはほとんどない。思想的な問題以前にこうしたパレードは寄付も募って運営するなど予算は限定的で大半は警備費用に割かれ、日の丸に限らず配布物にお金を回す余裕などないのが実状だ。実際、当時の報道によれば、実行委員会も理由のひとつとして「前例がない」として配布を行わなかったというが、それが今回は一転、配布が決まったのである。

 今回のパレードをめぐっては、羽生選手と日の丸を結びつけ、「日の丸手旗」配布の強い働きかけがあった。たとえば2月には仙台市議会で渡辺拓市議が4年前に実行委員会が手旗を配布しなかったことを問題視、郡和子仙台市長に対して重ねてこう訴えかけている。

日本会議系の仙台市議が「パレードで日の丸を振らないと都市ブランドを毀傷する」

「日本国を背負って、世界の頂点に2度までも君臨した国民的英雄を国旗日の丸の旗波で熱烈に迎えようではありませんか。(中略)ついては、少なくとも数万人にのぼる観客のため、十分な国旗の小旗を用意していただけるよう、当局には配慮いただきたく存じます」
「前回ですね、国旗日の丸を背負って、ナショナルな代表としてオリンピックを勝ち抜いて金メダルを勝ち取った羽生選手を故郷でお迎えするにあたって、国旗のお迎えがなかったんですね。これ、世界的に見ても極めて異様な光景に映ってしまいました。本市の都市ブランドにとっても本当にですね、毀傷する可能性がある」

 渡辺市議は日本会議系のシンポジウムやイベントで司会を担当するなど、極右界隈に人脈を持つ地方議員だが、こうした働きかけは議会の中だけにとどまらない。実に、この羽生パレードをめぐる「日の丸手旗」運動は、4年前から右派が取り組んでおり、その運動が実を結んだものだったのだ。

「仙台にパンダはいらない仙台市民と宮城県民の会」なる名称の団体がある。その名の通り中国からのパンダはいらないと主張するだけではなく、中国領事館建設反対や移民反対の趣旨のデモ活動などを行なう市民団体だ。

 同会は4年前、ブログで〈ご存知の通り、羽生結弦選手はオリンピック選手の中でも、日の丸と君が代を特に大切にされる選手です〉などとして、日の丸の旗を持参するほか、〈慶事なので旭日旗も推奨〉と呼びかけていた。そして、ブログによれば、4年前のパレードの際、仙台市議を通じて日の丸紙旗の用意を市に求めたが、市や県ら主催者側が協議した結果、「前例がない」「警察に迷惑がかかるかもしれない」との理由で用意を見送ると市議に回答したという。

4年前の羽生結弦パレードで和田政宗が日の丸配布を牽引!在特会・桜井誠まで協力

 そこで同会と関係者が各所に呼びかけて日の丸の手旗を集め、当日、協力者ともに参加者に配布。ヘイト団体・在特会の桜井誠会長(当時)も手旗を寄贈したという。しかも見逃せないのは、その「日の丸手旗」運動を、あの自民党の“ネトウヨ広報副本部長”こと和田政宗参院議員が牽引していたことだ。

 同会ブログによると、4年前のパレードでは〈当日は和田政宗参議院議員の呼びかけのもと、1,600枚の日の丸紙手旗を有志で配布することができました〉という。実際、和田議員も2014年4月27日のツイートで言及し、こうアピールしていた。

〈昨日の羽生選手のパレード。主催者より国旗日の丸が配られないという事態にあたり、仲間が国旗約2000本を調達し、配らせていただいた。関係各所より、羽生選手のパレードに国旗が無いのはおかしいとご支援いただいた。本当に有難うございました!〉

 和田議員はもともと2013年にみんなの党公認で宮城選挙区から当選している。ツイートでは「仲間」が調達や配布をしたというが、自分の選挙区で有価物をばらまいて“手柄”として公言するなんて、ちょっと公職選挙法的に大丈夫なのだろうか。

 まあ、それはおくとしても、実は、この「仙台にパンダはいらない仙台市民と宮城県民の会」の代表を務める及川俊信氏は、4年前の「日の丸手旗」配布の中心を担った「杜人の会(和田政宗交流会杜人の会)」なる団体の事務局長でもあり、和田議員の支援者。また、和田議員は、前述の仙台市議会で「日の丸を振らないと都市ブランドを毀傷する」なる意味のわからない要求をした渡辺拓市議についても、仙台市議選を控えた2015年6月に〈党派は違いますが、しっかりとした方にはぜひ勝ち抜いてもらいたい〉とTwitterでエールを送っていた。

 いずれにしても、こうして4年前の羽生パレードの時点で、極右議員と右派の草の根運動が連携することで「日の丸手旗」という「前例」が作られた。また同時にネット右翼層に「日の丸配布しなかった問題」をアピールすることで、市などに対するクレームが続出したと考えられるのだ。

羽生結弦選手自身はパレードについて「震災からの復興につながってほしい」

 というか、そもそもの話だが、彼ら極右界隈が羽生選手を持ち上げて「日本の誇り」だのと“日本スゴイ言説”をがなり立て、日の丸掲揚という復古的ナショナリズムそのものの運動に繋げていること自体、かなり無理があるとしか言いようがないだろう。

 羽生くんはスゴイ!→羽生くんは日本人!→だから日本人はスゴイ!みたいなバカ丸出しの思考回路だけを指摘しているのではない。右派のやり方を見てうんざりするのは、さらに、羽生くんはスゴイ!→日の丸を振りましょう!という極めて理解しがたいことを得意げに喧伝しているからだ。

 言うまでもないが、羽生選手の金メダルは、個人の才能と努力はもちろんのこと、カナダ人であるブライアン・オーサーコーチをはじめ、カナダ人の振付師、アメリカ人のデザイナーによる衣装、チームメイトもスペイン人、ベトナム人の両親のもとに生まれたカナダ人、韓国人など、実に日本人に限らないさまざまなルーツをもつ人たちに支えられてのものだ。それを「日本スゴイ」に利用しようというのは端的に言って卑しい。

 しかも、羽生選手自身が会見でパレードについて問われて、「やっぱりパレードするにはたくさんの費用がかかって、そしてどれだけ特別な支援があってのことかということは非常にわかっています」としたうえで、「ちょっとでも仙台の復興に、宮城の復興に携われたらいいなと思っています」と述べている。つまり、あくまでパレードは復興のためと考えていて「日本の誇り」などではなく、費用の問題も理解しているのである。実行委員会が金をかけて日の丸を配布することなど、羽生選手の本意ではないだろう。

 本サイトでも以前報じたように、羽生選手をめぐっては、今回の右派による「日の丸手旗」運動への利用にかぎらず、極右界隈から政治利用されてきた。たとえば、羽生選手は2012年3月4日に開催された「東日本大震災復興祈念の集い」なるイベントに出席しているが、その実態は日本会議が仕切る極右思想の啓蒙イベントだった(過去記事参照)。

 しかし恐ろしいのは、おそらく22日のパレードで、羽生選手に向かって日の丸をふる多数の参加者がメディアに映し出されることで、スポーツ選手の個性や考え方などおかまいなしに、こうしたグロテスクな光景が当たり前のようになってしまうことだ。是非とも羽生選手には、「日本国旗を振るよりも先に、復興に協力してください」ぐらい言ってもらいたいものだが……。

最終更新:2018.04.21 02:16

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