ブラ弁は見た!ブラック企業トンデモ事件簿100 第11号 

あなたの会社の新人研修は大丈夫?“寝させない洗脳合宿”被害者が警鐘「ブラック企業に騙される可能性は誰にでもある」

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 この連載の第1回では、佐々木亮弁護士から、「0泊4日の寝させない新人研修」の話が紹介された。https://lite-ra.com/2017/12/post-3632.html

 この記事を読まれた方は、「ここまでおかしなことをするのは、さすがにこの会社だけなんじゃないか」と思われたかもしれない。しかし、あるのだ。こんな会社がほかにも。4年くらい前、佐々木亮弁護士と飲んでいたときに、私だけでなく、佐々木亮弁護士も第1回連載で紹介された「寝させない新人研修」事案をもっていたことを知った。共通の感想は、「関東にも関西にも同様の事案があったということは、おそらくこの2件だけじゃなくもっとあるのだろう」だった。

 ということで、私が受任した「寝させない新人研修」事案について紹介する。
 その事件の依頼者は、大卒である会社に就職したが、半年持たずに退職した。私のところに相談にやってきて、最初に訴えてきたのは、勤務最初の4月第1週、その会社の新人研修合宿があり、その合宿で1週間「寝させてもらえなかった」ということだった。「そんなん、カルト教団の洗脳合宿やん」、当時の私は、にわかには信じられず言った。彼は、その研修合宿のスケジュール表を見せてくれた。そこには、朝の「起床」時刻は記載されているのに、夜の「就寝」時刻は記載されておらず、深夜には毎日終わりの時間がはっきりしないミーティングの予定が記載されていた。彼曰く、「僕は不真面目な方だったから、1日1時間くらいは何とか寝るようにしていたけど、真面目な人たちは本当に寝ていなかった」とのことだった。朝には「早朝訓練」と称し、ほとんど睡眠をとっていない状態で2km走らされたそうだ。まさに、「洗脳合宿」である。

新入社員は深夜23時から“劇”の練習!? 新人研修や劇の練習にも残業代を請求できる

 研修合宿後、通常勤務が始まったが、最初から「終電が定時」状態だった。そんな彼の業務日報を見ると、深夜23時台に「劇」という記載があった。何なのか聞くと、「この会社では、社員旅行で劇を披露するのが新入社員の役目で、この時間に新人が集まって劇の練習をしてました」ということであった。彼は、勤務半年足らずのころの深夜勤務中、仕事をしながらコンビニで買った夜食のソーセージをかじっていたら、その脂が飛び、書類にかかったのを見て、ふと「俺一体何やってるんだろ」と思い、翌日退職届を出したそうだ。

 私は、彼の依頼を受け、研修合宿中につき、3食の時間と1時間の睡眠時間を除く1日20時間を労働時間とし、その後については「劇の練習」時間も全て労働時間に含める内容で、この会社に未払残業代を請求する内容証明を送った。ちなみに、新人研修の時間は「働いているのではなくて、教育を受けているだけだ」という理屈で、「劇の練習」の時間は「仕事と関係なく、本人が勝手にやっていただけだ」という理屈で、いかにも会社側から「そんなものは労働時間ではない」との反論がありそうなところである。しかし、労働基準法上の「労働時間」とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」をいい、「指揮命令下に置かれている」といえるか否かは、会社がどう考えているかに関係なく、客観的に決まるものであるというのが、確定した最高裁判決の見解である。なので、新人研修の時間は当然「労働時間」になる。また、「劇の練習」についても、日報に「劇の練習時間を守れなかった」などなど、上司への報告記載があったりしたことから、上司の指揮命令下にあった時間と十分にいえる証拠が残っていた。

 内容証明を送った後、会社側代理人である弁護士と面会することになった。その会社側代理人も、当初はこちらの述べる事実につき、にわかには信じられない様子であった。しかしその後、会社側は、「寝させない新人研修」の時間も「劇の練習」時間も含め、こちらの主張する労働時間をほぼ全て認める内容で和解案を出し、この件は早期和解で解決することとなった。

「ブラック企業に騙される可能性は誰にでもある、本人の能力や人間性の問題じゃない」

 会社側の和解案が出たとき、彼は、和解を蹴って訴訟をするか、とても迷っていた。彼は、同じく長時間労働に耐えられず退職した元同期などにも、一緒に訴訟をしないかと声をかけたりもしたが、元同期からは、「会社辞めてから残業代請求するとか、そんなん詐欺やん。」と言われたそうである。もちろん、残業代請求は正当な権利行使であって、残業をさせながら残業代を支払わない「犯罪行為」を行ったのは、会社のほうである。「洗脳合宿」の呪縛は恐ろしい。

 新卒での就職でつまずいたとはいえ、彼はまだまだ若いのだから、新たなキャリアを目指すなら早いほうがいい。どちらがより正しいというものではなく、彼のそれからの人生を考えれば、彼が和解に応じた判断も、正しい判断だったと思う。彼はその後、和解解決金を元手に勉強し、現在労働基準監督官として働いている。

 今回この原稿を書く前に、彼に連絡して、この件を書くことの了解をもらったのだが、その際に彼から現時点での感想をもらっているので、以下紹介する。

「毎年新卒の採用の時期になると、この会社の採用サイトを見てしまう。毎年新たに学生が採用されていて、胸が痛む。企業が元気に継続していて、やるせない気持ちになる」
「ブラック企業に入社する人は、その人にも問題があると捉える人もいると感じるが、状況次第で誰でも騙される可能性はある。そうなってしまうことに、本人の能力や人間性は関係ないと思う」

 彼は、これだけ大変な思いをした後に労働基準監督官になった。今後も、酷い目に遭った労働者の気持ちが分かる監督官として、仕事をしていくだろうと思う。事件は終了しているので、今この会社がどのような労務管理を行っているのかを知ることはできないが、会社のほうも、彼の件を通じ、自社の労務管理が労基法に反する違法なやり方であったことを理解はしたと思う。そのようなやり方を改めていることを、切に願う。

【関連条文】

法定労働時間 労働基準法32条
残業代 労働基準法37条
残業代不払いに対する刑罰 労働基準法119条

(塩見卓也/市民共同法律事務所 http://www.shimin.biz )

********************

ブラック企業被害対策弁護団

http://black-taisaku-bengodan.jp

長時間労働、残業代不払い、パワハラなど違法行為で、労働者を苦しめるブラック企業。ブラック企業被害対策弁護団(通称ブラ弁)は、こうしたブラック企業による被害者を救済し、ブラック企業により働く者が遣い潰されることのない社会を目指し、ブラック企業の被害調査、対応策の研究、問題提起、被害者の法的権利実現に取り組んでいる。
この連載は、ブラック企業被害対策弁護団に所属する全国の弁護士が交代で執筆します。

最終更新:2018.07.03 11:07

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